エピローグ 終われない僕の独白

 あの後なんやかんやあって無事ではないけど、大事にならずにことは済んだ。生きた心地がしないどころか、何度か死んだ。それ以降も強制リトライ発動のせいで曜日感覚が狂わせられながらも日々を過ごした。


 ある時はイジメが原因で自殺しようとする少女を抱き留め、ある時は車道に飛び出しで引かれそうになる少年を突き飛ばして宙を舞って、そのたびにリトライをして。


「もう、いいか。」


 最初の内は救うたびに命の価値を下げているとか、リトライが時間逆行じゃなくて平行世界に飛んでるだけで救えていないんじゃないかとか、救ったところで僕は救われないとか憂鬱だった。それも、大切なもの入れの中から出てきた黄ばんだ手紙を見てどうでもよくなった。この子供みたいな筆跡は。鉛筆のにじみは。


「、、、、、、散々『天を呪ってる』なんか言ってる癖に僕が一番憎んでるのは僕自身だったな。」


 小学生最後の夏、僕を呪ったのはぼくだった。地獄を作ったのは僕だった。


「『苦しめ、苦しめ、不幸になってしまえ。だけど、その不幸は隠し通せ。絶対的に不幸になるのはダメだ。親が心配しちゃうから。だから、たくさん人を救って、相対的に不幸になれ。感謝は求めるな。幸せになるな。』」


 もう僕の人生は手遅れだな。この手紙の内容に共感してしまう。それに、心の底から大切に思えるのもそうない。だから、気軽に、コンビニに行くような気持ちで、相手の気持ちも考えず救う。胸のモヤモヤがはれるから。


 就寝前、枕元にヘルメットを用意しておく。確か明日僕は死んだからな。雨の日の軽トラックは怖いな。これで死なないとは思う。逃げたいけど、ダメだよな。


「ちょっと明日、人を救ってこようと思う。」


 そう自分に言い聞かせて目をつぶる。僕は終われない。だから、誰も死なおわらせない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その病、致死性はないが致命的につき。 久繰 廻 @kulurukuru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ