第3話 有限だから価値がある?ならば僕は?
「不死身になると命の価値は下がるのか。」よく不死身の人間が主人公の物語で描かれるテーマ。不死身なんてフィクションを多くの人が、哲学者が真剣に考える理由を知りたいかい?僕の考えだとね・・・・・・。まあ、もったいぶらずに結論から言うと、上のテーマで大事なのは命の価値、それだけだ。僕らは無いものを想像できる。比較することができる。だけど、本質に盲目で、比較しかできない生き物だから、
「『命は限りがあるから価値がある』かあ。」
これは僕が自身の運命を呪った日の、いや日々の話だ。
「西日がきついですね。」
「×××先生、天が目を覚ましたぞ。」
野太いハスキーボイスで目を覚ます。拳で語り合った技術の〇〇〇〇先生の声だ。喧嘩の後によく見た天井、ここは保健室だな。×××先生は細身の女性だから、きっと運んでくれたのは〇〇〇〇先生だろう。
「おはようございます。いや、こんにちは。それともこんばんはですか?」
毒舌数学教師は無言で詰めよっててくる。手に持ってるのはなんだ?逆光でよく見えない。にじりにじりという足取りではないものの圧迫感のある足取りで。もう目と鼻の先まで来ていてそのまま、
「いてっ。」
スパコン。スリッパだった。スリッパで頭をはたかれた。
「馬鹿野郎。二人とも死んでたらどうするつもりだったんだ。」
「いやあ、救えるのに見殺しにするのは、、、、、、ねえ。」
先生がもう一度腕を振り上げる。来るか、スパコン。目をつぶる。だけど、
「ふぇっ?」
「まったく、心配かけるんじゃないよ。」
グワシグワシと頭を揺さぶられる。撫でてるつもりなのか?心配してくれてるんだろう。素直に喜ぶべきだったと思う。しかし、
「僕は絶対に死にませんから。安心して良いですよーっと。」
僕には皮肉に聞こえてしまった。絶対にそんなつもりはないとわかってはいるのだが、僕は死ねない。実際、何度も死んだ。死ななくても、救えなかったらやり直し。勿論、このことは黙っておいた。言っても良かったのかもしれない。中学生だったから、そういうお年頃ってことで済まされるだろうから。その後、小一時間ほど、お前はリスク管理ができてないだの説教されて帰った。
翌日、重症ではなかった僕は登校した。登校せざるをえなかった。リトライが発動するから。重い足取りで学校へ向かう。
教室に着く、アルミの引き戸はギイイイと嫌な音を立てる。机には何度かボコったヤンキーが座ってる。ああ、そいつらの名誉のために言っておこう。彼らは悪ぶりたいだけで根はいいヤツだった。母親のことをババアとかおふくろじゃなくて母さんって言うんだぜ。それに語り合えば話の分かるヤツだった。まあ使用言語は
「おお、テンテンおはよう。」
「おお、失せろ失せろ。」
シッシッと追い払う。机に両手をついて体のバネを使ってヒョイっと、僕の横を通り過ぎる。何でかなあ。特に危機はないはずなんだけどな。またかよタキサイア現象。フラグは無いはずだが。恨まれるようなことしたか?僕が死ぬような状況か?
「うっ。痛えよ。・・・・・・て・・・ん。」
お前かーい。ヤンキーが倒れる。わき腹には黄色いグリップのでっかいカッターナイフが突き刺さっていた。犯人は
「何やってんだよ。この」
忘れもしない。僕に何度もリトライを強制した女生徒だった。しかし、最後まで言い切る前に暗転。再び教室の前に立つ。救えなかったからだ。
「僕は誰を救えなかったんだ。」
ヤンキーか?女生徒か?それとも僕自身か?結果的に刺されたのはヤンキーだったが、なんで女生徒は僕を刺そうとしてきた?そもそも僕は救えたのか?疑問が渦巻く。先が見えない。けど、
「どうせやり直せるんだ。」
僕は覚悟を決めて再び席へ向かう。金具を外しておく。他はなるべく、さっきまでの動きをなぞるように。不確定要素を増やさないために。一言、僕が言えば。ヤンキーは救える。
「おお、座ってろ。」
「はっ?いつもなら『失せろ失せろ』って。///!?後ろ!?」
ふう、上手くいった。
「知ってる。」
右側からカッターが刺突される。太いし、刃は新品。だけど、
「ベルトは切れないよな。」
腰に手を伸ばし、ベルトで刃を包み込んでへし折る。カッターナイフで助かった。包丁なら厳しかったな。女生徒は膝から崩れ落ちる。
「おいヤンキー。先生に『天は副担に呼ばれました』って言っとけ。」
大人しくなった彼女を抱き起し、×××先生のもとへと向かう。
「『命は限りがあるから価値がある』かあ。だったら、僕の救うって行為は命に対する冒とくかな?」
僕は強制リトライさせられるから、それを回避するためにコイツ等を助けているんじゃないのか?僕がこいつらの価値を下げてるんじゃないのか?
「はあ、天を呪うぜ。」
でたらめいうなよ一万円札の人。
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