第6話 最終打ち合わせ

「えっとこんにちは。聞こえますか?」


『はい聞こえますよ。ではミーティングやっていきますか』


マネージャーのリンさんと今日はオンライン上で会議だ。

使うのは今まで使っていたPC……ではなく届いてきた新品のPC&モニターだ。

私の持っているものよりも遥かに性能が上回っている。

それくらい最新のものを受け取ったのだ。


『今日は実際アバターを動かしてみようと思うので、私の画面共有を見れますか?』


リンさんが実際やり方を見せてから始めるらしい。

まずは配信の始め方。

スライドの切り替え、モニターの使い方。


んー難しい!

私の頭じゃ入りにくいよ。


でも頑張らないと…そう思って必死に食らいつく。


『ってな感じです。出来そうですかね……』


「ちょっと待ってください」


こんなの聞いただけじゃ出来るわけない!

そう思ったので私は早々にメモを書きだした。


『メモですか。流石ですね』


「私、あまり記憶力が良くないのでメモを使って付いて行くようにはしてます。」


昔からそんな感じだ。

周りより出来なくて…でも迷惑は掛けたくない。

だからメモを取って無理やりにでも付いて行く。

実際これのおかげで、長い間過ごせた。


『良いことですね。周りに対して自分が劣っているときに、どうやって食らいつくか。その点で工夫できるのはとても素晴らしいことですよ』


「え、あ、ありがとうございます。話を続けてもらえますか?」


まさか褒められるとは思ってなくて、びっくりした。

恥ずかしくて話を戻すように勧めてしまった。


『そうですね。すみません。それで……』


とゲーム配信の仕方。

サウンドの取り方、VC、などなど。話は色んな種類に分かれたくさん聞いた。


もう詰め込めない!というところまで来て、ようやく話は終わりを迎えた。


『という感じです。これで配信概要はおおまか以上です』


「な、なるほど。一応全部メモに取れたので復習します。」


『良いですね。基礎中の基礎ですし、慣れたら凄く楽になると思います。頑張って』


「はい!」


リンさんはすぐ褒めてくれる。

優しいなぁ。

そんな彼女の期待にも応えられるよう頑張らないと。


『ということで後はVTuberとして活動するために大事なアバターを動かすやり方ですね』


あ、忘れてた。

一番大事な事だった。

私達がVTuberになる上でアイデンティティのようなもの。


「えっと、専用のアプリを入れるところまではやりました。」


『良いですね。では私と同じように出来ますか?』


えっと、なになに?

リンさんの画面に映し出されたものを、そのままそっくり真似する。

まずはアバターを読み込んで、PCと連動させて…………


30分間ひたすら画面とスマホとを見比べて、ようやく


『これで画面に映るはずです。どうですか!?』


……!?


「す、すごい」


私が動いたとおりに画面上のキャラクターは動く。

これって革命!?凄すぎない!?

私が求めていたもの。

画面越しでいつも見ていたVtuberそのものなんだけど!?


『ふふ』


リンさんは少し微笑んだ。


『いやすみません。凄く嬉しそうで、教えていた私も嬉しくなっちゃいました』


「え、えへへ」


なんだか恥ずかしいな。

リンさんには耐性が薄いみたい。


「あとはこうしたら……おお!これで配信の時に右下に映せる!」


『そうです!飲み込み早いですね流石です!もうあとは本番に備えるだけです!』


「ようやく、終わったぁ。」


とりあえずチュートリアルは終わりと言ったところ?

でもまだ初配信は残ってるし、全然序盤の序盤だ。


「本当にありがとうございます。」


『いえいえ、私も教えがいがありますし、応援してますよ』


「期待に応えられるよう頑張ります」


本当に応えられるかと言われれば、まだ不安は募るが…まあなんとかしてみせる。

私はその気持ちでいっぱいだ。


『初配信は30分の予定でしたっけ?』


「そうです!枠の兼ね合いもですけど、配信自体初めてなので…」


初めての経験から1時間以上は私も流石に辛いというもの。

自己紹介と少しだけ質問を答えて私は一旦おしまいだ。


他の2期生は、早速ゲームしたりするらしい。

流石だなぁ。


「不安だなぁ緊張してきた。」


身体がぞくぞくする。

本当に出来るのかな。


『はは、大丈夫です。最後の1つ話しましょうか』


「聞きます」


レンさんの語り話、需要しかない!


『これからこの業界に携わるということは、これからも色んな見たことのない経験をするかと思います。それがいつになるかは分かりません。それが苦しいものか、楽なものかも分かりません。本当に成功するとも限りません。これから辛いこと、苦しいこと、それらにも必ず目を向けてしまうと思います。

それが配信業にまで影響を与えることになるかもしれません。 

でも私たちは常にあなたの味方として、サポーターとして全力で支えます。

何かあったらいつでも頼ってくださいね。』


「はい!!!!頑張ります!!!」


もうすぐVtuber。

夢で終わらせていたかもしれないこの業界に私が参戦する。

まだ夢だ。

でももうそれは現実になる。


私がこれからどうなるかなんてわからない。

でもどうなっても突き進む。そんな覚悟はとっくに出来ている。


お母さんは言ってくれた。

「一歩ずつ頑張ればいい」って。

どれだけゆっくりでも、例え仮初に染まった一歩でも。

それは同じ一歩で、これからを築き上げる最高の礎だ。



(頑張ろう)



私の人生最大の山場はもうここにある。

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