第3話 迷い道
「あれ、春どうしたの?」
「あ、えっと…」
夜音さんはキョトンとした顔でこっちを見ていた。
道の端っこで頭を抱えている少女に違和感を抱いて当たり前か。
「道に迷っちゃって…」
恥ずかしながらそう言った。
「あはは、仲間だね。私もここがどこか分かんなくてさ。」
あれ夜音さんも…?
「駅は同じでしょ。一緒に歩かない?」
「あ、えっと、そうします!」
1人だと心寂しい。
だからこそ、夜音さんが居るだけでも心強い。
「春ってなんでVTuberやろうと思ったの?」
彼女は急にそんなことを聞いてくる。
「あ、えっと、人を笑顔にしたかった…から?」
「へえ~いいね。凄く良い!」
彼女は私の話を聞き入ってくれた。
あまり学校に行けてないこと。
ただ、気に入った配信者が居たこと。
その方に凄い憧れを抱いたこと。
「うわぁ、凄いね。君も色んなことがあったんだ…。」
「そういう夜音さんはどうしてなんですか?」
少し語りすぎて恥ずかしい。
だから話を彼女にも聞いてみる。
「え、私?私はね、身近で支えてくれてる人にいつも生きる意味を持ってくれてね。って難しい話になっちゃうな」
てへへ、と少し笑いながら話を続けた。
「私も皆に生きる意味を見いだせたいなって。私たちの配信で活力をもっと与えたいなって思ったの」
「良いことです~聞けて良かった」
私なんかよりも何か決意が違うな、、、
彼女は本当にVTuberになりそう。
そんな気がした。
「あ、あと!私の事は夜音で良いよ。あと同じ年でしょ?敬語も無くて良いよ」
「え、あ、いいの…?」
呼び捨てにしていいって。
嬉しい。
なんだか距離が近くなった気がして…
「夜音、はゲームをやったこととかあるの?」
「もちろん~幼なじみがゲーマーでね…それで、」
と私たちはずっと話していた。
こんなに会話って楽しいんだって私は肌から感じた。
もっとこの時間が続いてほしい。
そう願っても、そんな夢なんて叶わない。
「ありゃ、いつの間にか駅に着いちゃったね。」
「だね。私はこっち、夜音は?」
「こっち、逆方向か~まあ仕方ないね」
とバイバイして別れた。
もう会えないのかな、そう思うとなんだか胸が苦しくなった。
また会って話したい。
そういう気持ちはいつまでも募る。
だって人と話すことがこんなに楽しいことだなんて思いもしなかったから。
「ただいま~」
「あら、おかえり。春、どうだった?」
家に帰ってくると怜夏さんが快く出迎えてくれた。
「結構良かったんじゃないかな。」
実際どうかと言われると、正直分かんないな。
良くも悪くも…でも夜音よりは出来てないだろうし、、、
「そう、でも挑戦したことは大事な事だったわよ。よく頑張ったわね。」
「うん!」
まあそうだよね。
受かっても受からなくてもそれは私にとって成長だよね。
そうだよ、ポジティブに捉えるしかない。
「発表はいつなの?」
「えっと、2週間後って面接で言ってた」
「そっか。楽しみに待ちましょうね。今日は焼肉でも行きましょうか」
「え、いいの!?」
「ええ、春が頑張ったご褒美だよ。」
「やった~嬉しい」
焼肉!?頑張ったかいがあったよ。
怜夏さんは細かいことからちゃんと褒めてくれる。
もちろん私が悪いことをしたらきちんと叱ってくれるし、私にとっては親も同然だな。
「あ、そうそうご両親にも連絡しときなさい?きっと心配してるわよ」
「うん!!!」
私は恵まれてるな…そう思った。
こんな生活をしていても、誰も根ほり葉ほり聞いてこない。
でも、私もそろそろそんな期待に応えたいな。
そう思う気持ちは強くなっていくばかりだった。
〈お母さん!頑張ったよ!〉
〈お疲れ様。どうだった?緊張した?〉
〈めっっっちゃ緊張した!でも頑張れたよ〉
〈いい経験になったわね。私も嬉しいわ〉
嬉しい?
どうして?
〈なんで?〉
〈だって春が一歩ずつ何かに歩めているの。それは素敵なことじゃない〉
〈えへへ、今回はダメかもだけどまた何かに挑戦するかも!〉
〈あらその時はまた応援するわ〉
〈ありがと!大好き!〉
お母さんと連絡を取り終えるとスマホをベッドに投げて、そのまま私も寝ころんだ。
今日1日でいっぱい成長したな。
どこまで行けるのかな?と思ったけど現実はそこまで甘くないみたい。
受かる気が早々しなくなっちゃった。
原因は1つのメール。2次選考の面接を受けた人が1000人も居たらしい。
流石に多すぎ!?って思っちゃった。
1000人の中から約10人になるだなんて、流石に無理でしょ。
私は覚悟を持って頑張った。
怜夏さんにも言われた。
「人生、迷い道がいっぱいある。いっぱい迷う、それもいいじゃない」
そうだなって私は率直にそう思った。
この件はここでおしまい、次ある機会にまた頑張ろ。
そうしようと思ってた。
まさかVTuberになれるだなんて思ってもいなかったから。
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