第35話

私に背を向けてテーブルに戻る和真くん。

入れ替わりに私に近づいて来る社長さん。


「立ち聞きは確かによくないね。」

さっき迄とはまるで違う大人モードの喋り方。


「すいません。立ち聞きする気はなかったんです。ただビックリして。」


「ビックリ?」


「和真くんと社長さん、まるで仲のいい先輩後輩みたいで声かけそびれたって言うか。楽しそうにじゃれ合ってるのに邪魔したくないと思って。」

私の言葉に驚いた顔してる二人。やっぱり言い訳なんてせずに素直に謝るべきだったかな。


「ごめんなさい。」

今更だけどペコリと頭を下げれば、ぽんと大きな手が頭に載せられた。


「社長さん?」


一柳智生いちりゅうともき。トモキでいいよ比名ちゃん。」


「社長さん?」


「だから智生で。」


「無理です。」


「即答?」


「はい。ケジメです。

今日までお世話になりました。」


「こちらこそ。よく働いてくれて助かりました。まったく。二人共に融通きかないね。」

苦笑する社長さんにもう一度頭を下げた。

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