第12話

その日から、私と佐々木さんは前より少し内容のある会話を交わすようになった。


「いらっしゃいませっ。」


「今日も元気だね。」

いつもの会話から始まる楽しみな時間。佐々木さんは37才。独身。

実は聞いてびっくりしたんだ。てっきり結婚してると思ったから。

だって左手薬指に結婚指輪してるし。


「未練がましいんだよ。実は結婚寸前に彼女に逃げられてね。」

なんて苦笑されたけど正直信じられない。だってこんな素敵な人が彼女に逃げられるなんて。何か深い訳が有るんだと勝手に思ってる。

それにそんな酷い事されたのにその人に贈るつもりだった指輪をするかな。


「普通しないよね。」

いつの間にか口に出してたみたいで


「何、佐々木さんの事?」


「あ、和真くん。」

和真くんに聞かれちゃった。


「うん。ちょっとね。」

へらりと笑って答えたら


「比名ちゃん。佐々木さんには本気にならない方がいい。」

それだけ言うと来店されたお客様をお迎えに行ってしまった。


「は?」

何それ。本気も何もただ憧れて見てるだけなんだけど。理想の父親として。

ファミレス中の人が誤解してるよね。

いいけど。まだ男の子と付き合う気ないし。

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