case8.ニュースキャスターもどき


「えー、ここ二、三ヶ月ですかね。原因不明のご遺体、所謂不審死が多発していますが、先生はこの件に関してどうお考えでしょうか?」

「そうですね、えー、はい。不審死とは言いますけど、これが亡くなり方は大体一緒なんですよね、えぇ」

「と、言いますと?」

「殺人事件と見立てて考察するならば、同一犯であるのはまず間違いないかと」

「……ですが……」

「えぇ、えぇ。言いたい事は分かりますよ、亡くなり方があまりにも非人道的。加えて人為的とも言い難い。皆さんが殺人とも自然死とも判断しかねる理由はそれです」

「しかしながら連続している点からも、世間では連続殺人犯の存在を考察する方も増えていますよね」

「そうですねぇ……闇バイト、ってご存知ですか」

「闇バイト?」

「えぇ。犯罪を行う人員を、バイトとして雇うんですよ」

「時々ニュースなどでも見かけますね」

「そう、そうなんです。良いですか、闇バイトは世に蔓延っているんですよ。それこそ、我々が思っているよりずっと」

「今回の不審死は、闇バイトとして雇われた人が起こしたと?」

「いやいや、そんな訳がありません。第一、そうであったとしたら、不審死、なんて言われる訳が無い。人の起こした事というのはすぐバレますからね」

「……えぇっと」

「えぇ、えぇ。つまるところ、私が言いたいのはですね、闇バイトとして雇われた人々が被害者である、という可能性についてです」

「はあ」

「闇バイト……特に若者ですね。近頃急増しているでしょう、困窮してグレーゾーンに手を突っ込む若者達。そう、若者が多いんです。歳を重ね知を身につけた人ではなく、未熟で、柔らかい身の若者が」

「……確かに、被害者は全員若い方ですが。それは中々こじつけではありませんか?」

「まあ個人的考察、とでも言っておきますよ。ところで、若者が雇われて起こす犯罪の大半は失敗に終わってるんですね。科学技術を欺けない、だけではないんです。彼らには良心がある。社会に揉まれる前の若者というのは、無責任に『この程度ならバレないだろう』と口を開いてしまう癖もある。私が思うに、この事件、それを利用されているんじゃないかと」

「利用、ですか」

「えぇ、えぇ。口を滑らす、という本来は咎められる行為を条件にして、何かが起こってるのでは、と思うんですね」

「……なるほど。個人的見解としては、とても面白いと思いますけど」

「個人的見解は自由ですからね、ははは」

「面白い意見をありがとうございます。では、以上、本日の---ニュースでした」




「……こんな感じで良いんですか?」

「あっ、はい。大丈夫です。指定語句も……不審死、闇バイト、柔らかい身……はい、ちゃんと入ってますね」

「"風変わりな発想を用いてニュースに意見を述べる"、でしたっけ。なんか勢いで個人的見解だの言っちゃいましたけど。いやぁ、微妙な気持ちになりましたよ、これ。闇バイトしてる身として自分自身に説教してる気分でしたし」

「ははは。まあそれで儲かるなら良いじゃないですか。じゃ、私はこれで失礼しますね 」

「給料は?」

「勿論、口座に振り込んでおきます。あっ、その前に、書類に不備がございまして。こちらにサインをお願いいたします」

「あ、はい……これで良いですか?」

「はい。オッケーです。念の為読み上げてください。後から契約を破られても困りますので」

「あぁ、はいはい……追加事項、契約者はこの話を口外しない。契約者は給料受け取り後、速やかにバイト関係の記録を消去する……えっと、」

「そこは読まなくて大丈夫です。関係者の名前ですので、目さえ通していただければ」

「あ、分かりました」

「では、給料は後ほど振り込んでおきますね」

「……あ、の」

「はい?」

「なんか、聞こえるんですけど」

「……あぁ、そうですか。おつかれさまです」


【大きなエラー音と共に、録音は途切れている】




※このお話はフィクションです。

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