case7.祠壊しのバイト

 ピッ。



「まぁじで、なんであんなん引き受けてしもたんやろ。

 あんな?友達から『採用されてしもたから代わってやぁ』言われた時点で、なんやおかしないか思っとったけど。あそこで辞めれば良かったんに、俺ってばアホやわぁ。優柔不断てよぉ言われるけど、なんであん時に限って即決してもうたん?アホなんか俺?

 いや、せやけど日当10万やぞ?即決すんのも当然っちゃ当然やんな?金欠の時にそんなん目の前吊り下げられたら、やるやんか、そんなん。


 ……ちょお、カーテン少し開いてもうてますやん。うわぁ、近づきたないわぁ……


【数秒間無言】


 よし、閉まった、閉まった。アイツも居らんし、良かっ……いやどっちみちアカンかったわ。

 まあね、それで仕方なく?俺優しいし?友人の代わりに引き受けてしもたんですわ、バイト。


 内容は物騒オブ物騒、まさかの祠壊し。いやアカンやんな?フツーに考えてバイトやなくてもアカンやんな?

 よお考えたら、雇い主も変わりモンでしたわ。突然喜んだり突然白目剥いたり。変わりモン、っちゅうか、もうアレ人とちゃうかったんやないかな、うん。


【数秒間の無言。微かにノイズが入っている】


 あー、ほら。すぐ喜ぶんですわ。ほんまに喜んどる?喜びとか感情あるんかいな、アレ。


 あぁ、せや、祠壊しな。確か××県境と、×××海沿い、××湖んとこもか?何箇所かに置かれとる祠を壊すんやけど、案外簡単なんよな、これが。

 祠壊しやぁ言うたけど、別に祠自体を壊すわけちゃうねん。中身を壊すんや。祠の中に置いてある、白くてちいこい石みたいなん……そっと取り出して、ハンマーで強めにボコしたら、すぐボロボロになりましたわ。あれ、何やったんやろ。

 それに、祠も祠やったわ。ボロっちい祠でな。いやホンマにボロっちいねん。×××海沿いの祠なんか、最初テトラポットの間に落ちとるゴミかぁ思っとったわ。まさかテトラポットの間に祠落ちとるなんて思わへんやろ。しかも海辺やから、潮風浴びて腐っとったし。アレ、放っとくだけでも勝手に壊れるんちゃう?


【数秒間の無言】


 ……あー……祠の、ちいこい石の下に必ず書いてある単語があってん。

 気づいてしもたのがよぉなかったんや、多分。

 アマノカエリ様。読み方合っとんか分からんけど。


【数秒間の無言】


 はは……あかんわ、ほんまにあかん。

 気ぃ狂ってまう。ほんまに狂ってまう。


【数秒間の無言】


 ずうっと喜びおって……いや……もしかして、これしか単語知らんのとちゃうか。

 あー、ほんまに最悪や。これ見とるか?××(人名)。お前正解やで、あのバイトはやらへんのが大正解やわ。

 あー、クソッタレや、ほんま。死にたないのに、死にたなる。


【数秒間の無言】


 ……ベラベラ、喋ってしもたな。

 喋っとったら気ぃ保てる思っとったけど、もう無理そうやわ。遺書にしてはまあ、陽気に喋れたんちゃいますのん?ええやん、ええやん。耐えた方やろ、コレ。


 さて、もういこか。アイツ、知らん奴の声真似て話しかけてくるから困んねん。お陰で外でれへんくて、食料尽きてしもたわ。

 何が悪かったんやろ……や、まあ、祠壊しよな。祠壊ししか原因ありまへんわ。

 あ、安心してな××(人名)。俺はお前のこと責めたりせぇへんから。責めんのは……せや、雇い主や。結局アイツが求人出さな良かったっちゅう話やし。


【数秒間の無言。一瞬大きなノイズが入る】


 あー、あー、あー。

 なんやろ、なんやろな、アイツ。見たらアカン系の奴なんやろな。見てもうたからな。家に逃げ込んでも結局こうなるんやから、もう、あー……


【大きなノイズ】


 ……いや、ちょお、待て。


【大きなノイズ】


 なんで、お前、××(人名)の声知っとんねん」



 ピッ。



【ここでビデオ映像は途切れている】




※このお話はフィクションです。

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