case10.ヒトガタお届けサービス

 最近、人形が部屋の中に置かれてるんです。


 会社から帰って部屋の電気を付けると、必ず部屋のどこかにあって。机の上とか、冷蔵庫の中とか、風呂場の排水溝とか。

 勿論俺が置いたとかではなくて、全く知らない人形が毎日必ず、どこかに置かれる、っていう。

 最初は不気味だと思って捨てたんですけど、次の日も次の日も続くものですから、半ば諦めの感情を抱いてたというか。別に支障はないし……ただ不気味なだけなので、まあ良いかなと。


 でも変なのが、こういうのって典型でいけば日本人形とかリカちゃん人形とか、あからさまに怖い人形じゃないですか。

 その人形、違うんですよ。真っ白な、ただ人型をとって縫い合わせただけ……というか。かえって不気味で仕方ないんです。だって、目も口も鼻も無いのに、ずっと居るんですよ。ずっと見てる感覚もするんですよ。怖くないですか?怖いですよね?

 この間、出張で家を空けたんです。三日ぐらい。そしたらどうなったと思います?その人形。


 顔の横に、二つ穴が空いたんです。


 左右に一つずつ。それ見た瞬間ゾッとしちゃって、あれから結局人形を捨てる生活に逆戻りですよ。全く嫌なルーティンが増えて……え?あぁ、貴方のご友人のお話についてですか?あー、そうですね、まあ後ほど。

 ところで、渾沌の話を知っていますか。渾沌。中国の荘子が書いた話です。

 ある所に渾沌という王がいました。彼の元に、二人の人物が訪れます。王は彼らを大変もてなしました。そこで、二人は恩返しをしたいと考えます。


 Q.二人がした恩返しとは?


 ……実は、渾沌という王はのっぺらぼうだったんですね。だから勝手にそれを不自由だと見なした二人が、七日かけて渾沌の顔の穴を掘っていくんです。耳、鼻、口、目……要は、一日につき、一つ。

 あ、気づきました?そうなんですよ、この人形、その話の渾沌にそっくりなんですよ。ただね、渾沌は話の最後人の顔を得たことで死んじゃうんですけど、この人形がそうなるとは思えなくて。何だかすっごく嫌な予感がしてて。怖くて怖くて。

 あ、そうそう。これ例のチラシです。ポストに溜まってたのに気づくの遅れちゃって。

 ヒトガタ提供バイト、って書いてあるでしょう?所謂闇バイトの類なんじゃないかと思って、あ、やっぱりそうですか?そうですよね?

 ほら、見てください。バイト内容。

 指定されたお家に人形を届けるだけ!一件につき三万の報酬あり!……最近流行りの強盗バイトに近しい感じ、しますよね。相当手練なんでしょうけど……相当……

 あ、いえいえ、こっちの話です。ところで、このバイトチラシに変な箇所があって、見て欲しいんですけど。

 ほら、ここの備考欄。

 貴方にヒトガタをお届け!欲しいヒトガタをセレクト!一人百万から!

 ……ヒトガタ、なんですよ、人形じゃなくて。しかも依頼側の目線にすり変わってるというか……

 え?あ、貴方のご友人についてですか?あ、いや、はい。後で話すので、あの、えっと。


 あ、ちょ、ちょっと待ってください!ご、ごめんなさい、本当は貴方のご友人の事は何も知らないんです!けど待って!行かないで!



 人形がいないんです!!



 ……ご、ごめんなさい。嘘をついた事、謝ります。大声あげたのも。

 今朝から、ずっといなくて。絶対いるはずなんです、絶対。

 実は三日前、会社に泊まり込んじゃって……昨日帰ってきた時にはいたんです。


 顔の、上半分に二つ。穴が空いてて。


 あのクローゼット、見えますか。ガムテープが沢山付いてるでしょう。昨日、捨てるのも憚られて、クローゼットに入れてガムテープで閉じ込めた……はずなんです。はずなのに、いなくなっちゃったんです。でも、いるはずなんです。

 か、感じますよね、目線、感じますよね?感じない?感じるでしょう!?ずっと見てるんです、ずっと!!


 部屋のどこかから、ずっと。


 え、まって、置いていくんですか、なんで……そんな、あ、貴方、人の心は無いんですか!?



 ……え?うしろ?




〇ヒトガタ提供バイト【依頼ページ】


 ヒトガタが欲しい貴方!ヒトガタが足りない貴方!朗報です!

 私達ヒトガタ提供バイトが、貴方の望むヒトガタを提供いたします!

 以下の住所、住居者一覧より、お好きなヒトガタをお選びください。

(※ヒトガタの年齢、社会的地位、依頼者様の使い道によりまして値段が上下いたします。ご了承ください)

____________________

豊田区××アパート103号室 ---- (男性27) 独身

広島市×××× 一戸建て ------ (男性32) 家族持ち

札幌市××タワーマンション ---- (女性17) 高校生

【タップしてさらに表示】

____________________



※このお話はフィクションです。

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