case2.食葬バイト

 すいません、今忙しいんで……え?裏バイターに話を聞いて回ってる?……いやいや、俺、裏バイターとかそんなんじゃないッスよ。

 食葬バイト?……あー、そんなんやりましたね。あー、そっか、あれ闇バイトか。そっかあ。


 まあ、良いですよ。過去の話ですし。食葬バイトについて話せばいいんすか?あんま正確には覚えてないと思いますけど……。


 五年前ぐらいでしたかね。俺、あん時限界大学生ってヤツで。金が無かったんすよ、金が。学生のバイト代じゃあ奨学金を返すのに精一杯で、そんな俺を支えようと踏ん張ってくれてた母ちゃんも過労でポックリ逝っちゃって。

 そんな時に、確か先輩、いや同期だったか?つか名前……あ、そう、そうです、██さん。██さんが食葬バイトを紹介してくれたんです。

「割のいい仕事がある」って。聞いてみたら日給十五万だとか、今聞けばどう考えたって怪しい仕事だったんスけど。でも、金欠になるとそーいうの気にしてる余裕なんてないもんですから、食葬バイトを単発で受けることにしたんです。


 内容は……まあ、変わってはいましたけど、予想より普通でしたね。

 豚を食べるだけ。それだけで日給十五万。拍子抜けでしょう?思わずポカーンとしちゃってバイト先の人達に笑われましたよ、あん時は。

「なんなんすか、この仕事」って聞いたら、なんか日本人が失ってしまったものを代わりに補う?とか何とか……あ、ええと、日本人って食事の時に「いただきます」って言うじゃないですか。あれって命に感謝をする言葉なんですけど、今の日本人はそれが流れ作業になっちゃったというか……感謝を本質的に行えていない!みたいな。それで、"感謝をして食事をする"人がいない日本にならないように、って始まったのが食葬バイトだって聞きました。俺もおかしいなぁとは思いましたよ。だって大金払ってする事じゃなくないスか?それって。


 ?他にはあるか……と、言われましても、うーん……。

 あ、そうだ。豚食べるって言ったじゃないですか。あれ、豚肉一枚とかじゃないんですよ。

 豚丸々一匹。ドンッて出されるんです。しかも、食べ終わるまで部屋から出して貰えない。俺は大食いだったんで余裕でしたけど、他の人は大分キツイだろうなぁとは思ってましたね。

 っていうか。豚ってチョイスもよく考えたら分かんないスよねぇ。日本人の感謝の心を〜とか言うなら、米とか、焼き魚とかでもまあ良いわけじゃないですか。

 味?味も普通でしたよ。あ、勿論フンとか不味い所はバイト先の人が取り除いてくれてたので、ちゃんと美味しかったし……


 あ。もうそろそろ時間だ。この後面接なんですよね。あ、貴方██さんのご友人なんですか?あん時は██さんの紹介のお陰で救われたんですけど、まだお礼言えてなくて。もし良かったら、あの人にも宜しく伝えといてください!じゃ!




【マスコミ記事の切り抜き】


 ×月××日、都内の高層ビルにて遺体が発見された。

 二名の男性が遺体を解体していたところを、通報を受けて駆け付けた警官が現行犯逮捕。臓器の一部は欠損しており、警察は現在事情聴取を行うと共に、二名が暴力団関係者であることから、暴力団関係の事件とみて調査を進めている。

 また、欠損した臓器に関して容疑者二人は「糧として還った」などと述べており、警察は組織ぐるみの犯行とみて──────────



※このお話はフィクションです。

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