「天野も知ってるかもしれないけど、善ってどこか“抜け感”というか“隙”というか…敢えて他人に壁を造らないところがあって女でいうところの貞操観念も低い。のに、私、善が爪伸びっぱなしのところとか見たことないんだよね」
「…爪?」
「そう、爪。髭でも髪でもいいけど。何が云いたいかっていうと、善は、自分含めた界隈の管理が徹底してる。例えば漫画は何巻まで読んだか覚えている上に本棚の画も頭の中にあるから同じ巻をダブって買うようなことがないし、冷蔵・冷凍庫の中身とか日用品のストックも多分記憶してる。だから女の子も何人も同時に相手できるのね」
最後のは、心未ちゃんの皮肉か。彼女はきっと、善が勘付いている以上に善のことをよく見てる。
…よく、見てきた、と思う。
好き、とはそういうことだ。皮肉にも。
「そこまで印象あって知ってたら——っていうか、洗濯物が……」
何を思い出したのか小さくなる語尾。
その時丁度さっき頼んだ酒と、遅くなった旨と詫びと、心未ちゃんが頼んだらしい人数にそぐわない量のごはんが運び込まれた。最早つまみじゃない。ごはんだ。
端に置かれたそれらを手分けして満遍なく拡げながら、心未ちゃんは「絶対に適当に畳めないのか?ってくらい癖の強い洗濯物の畳み方されたら、嫌でも気付くじゃんね」と唇を尖らせた。
「私は文未のことも知ってるから、文未があんな畳み方しないことくらいわかる」
「気付いた時、嬉しかったの?」
「嬉し……かったの、かな。いや結局善離れできてないんかいって情けなかったかな。それに何で善は知らないフリして私の世話焼いてんだろって、
まー私が頑なに善に居所教えないからなんだけどさ」
それは、違う。
『善離れできてない』んじゃない。善がそうさせてない。
それに善が今も文未ちゃんに口裏合わさせて、居所知らないフリしてわざわざ心未ちゃんの意識が向かない時に世話焼いているなら…十中八九、後ろめたい事でもあるんじゃねーの?
と、思ったけど。言えなかった、純粋いっぱいに善のことが好きだとわかる心未ちゃんを目の前にしたら。
「だから木曜日——あ、父親が私が習い事してた木曜日に出て行ったからそれから夜眠れないんだけど——にいつも来た形跡があるから。寝たふりして、バレないように部屋、真っ暗にして驚かせてみようかなって」
いただきます。そう挟んで手を合わせた彼女はマルゲリータを一欠片手に取り、頬張った。
「美味しい。…驚くかな」
…あぁ。
恐らく、あの啖呵の後心未ちゃんを連れ出した俺とそれ以外のフォローに回った文未ちゃんの間で反撃なく黙ってついてきた彼女は、これを、俺に云いたかったのか。
「心未ちゃんてさ、愚問承知の上で訊くけど、男友達とかいる?」
「……いる」
「え。いるんだ?」
「…あんた」
「ブフッ」
あーあーあー。やっぱりそうだよね。薄々感じてたけど心未ちゃん、俺のこと友達として相談してくれてたんだよね。
「笑うとこ?」
「ごめんごめん、やっぱ心未ちゃんって可愛いよね」
「は?」
「ごめんて。…どうだろ、善 手強いからなぁ」
「…だよね」
知愛くんと前坂ちゃんの件でも相当落ち込んだらしい善に心未ちゃんの初めての男友達になったよって自慢したら、どんな表情するんだろ。
『知っててちょっかいかけちゃうのが茅だもんね』
心未ちゃんと二人きりで居ると知っただけで簡単に手が出ちゃうような
どう——…あー…、もやもやもだもだイライラ、してるんだろうなぁ。
楽しい。
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