聞く耳持ってませんモードになった芹に掛ける言葉なく頬を膨らませてみるも見てもくれなかった。
仕方なく、言われた通り下の階の心未の家の鍵を開けてから一旦二階へ戻り、何かあったらすぐに降りられるよう階段近くで見張っていると見覚えのある車が前の駐車場に止まる。
「若!」
暫くして何故か心未を抱えこっちに向かって来た若に駆け寄った。
「ナズナ。鍵だけ開けてくれたらいいのに」
「鍵開けて見張ってました…車出すなら言ってくれたら」
「あーいいのよ運転したかったし」
「心未どうしたんすか」
若に抱えられた心未を見るもピクリとも動かず眠っている。
「寝てるだけ。昼間にこれは目立つから先上行って待ってて。アタシも心未ちゃん寝かせたら行くから」
「あ、す…」
芹の予感は外れたのか。ただ一応持って来た渡すべき紙袋は若も一瞥したようだったから後で受け取るということだろう。
俺は、いつも通りに心未に世話を焼く若を残して先に二階へと戻った。
体感にして数分後、鍵を開けておいたドアが開いて若が戻ってきた。
「お疲れ様です」
声を掛けると「あれ。芹も居たの」と早速芹を見つけている。
「例の物、本家に持って行こうとしてたので今ありますよ」
折り畳んでいた長い脚で窮屈そうに立ち上がり、ん、と若に突き出す。
若は「あぁ」と何だか気の抜けた声を出した。
「若。あの好青年くんわざわざウチまで持って来てくれましたよ、入り難いだろうに」
「そう。仕事が早いなと思っただけよ」
「そうですか。というかこれ桐に頼んでもよかったんじゃ?」
話が見えないが取り敢えず俺は若のお茶を淹れることにした。
「だめ」
「? じゃあ知愛くんでも」
「知愛くんはマジでキリティー以外の事に興味関心意欲ないから」
律儀に台所で手を洗った若はコップに緑茶を注ぐ俺を通り越して芹に手渡された紙袋を受け取り、中身は出さずに足元に置くと再び台所に戻って来て換気扇を回した。
俺たちが見守る中、ポッケから取り出した煙草を咥えたところで視線に気付く。
「あ、吸っちゃだめか」
「いえ…珍しいなと思って」
「そーね。におい残って万が一心未ちゃんに突かれたらそういう友達が遊びに来たとでも言って」
「はい」
煙草に火をつけて、落ちた髪を耳に掛けた若は何か悩み事でもある様だった。
「何?」
「…あ、そういえば若 モモザネの居場所突き止めたって」
「あー、うん」
「どうやって」
「
『も』。
関係。
それを遊びとも仕事とも呼ばない若が言うといっそ清々しいもののように聞こえる。
「まァ、実際は逆。ああいうクソ野郎は外面は徹底して良くて、それで何年も紛れてた。その事に気付いたらあっさり見つかったわ。今まで本気で捜してなかったと言われればそれまでだけど」
「若、心未の為に」
「いや? その件は文未ちゃんの——“借り”というか“交換条件”というかね。
ああ、女の子は純粋に好きだから関係に負担はないわ」
そこまで朗らかに口にすると、煙草から離れた指先が首筋をなぞった。
「面倒はあるけど」
「面倒…」
「若は面倒な女が好きでしょう」
引き続きTVを観ていると思っていた芹が横槍を入れると若は「ん、痕は付けないから抱いてって言って痕付けるような女の子ね」とにっこり笑った。
「痕って付けられる時気付かないか?」
「んー?」
「わざとですか?」
勘繰るような呆れたような、流石に長い付き合いの芹に対し若は明言しない。
「ナズナは特定の相手がいない筈の男の首にキスマークあったら引く?」
「いえ、若が昔から滅茶苦茶モテるの知ってるから別に引くとかは」
「違くて。それが好きな人だったら?」
「…引くっつうか、ショックですかね」
誰が見ても疑わないであろう綺麗な横顔に答えると一瞬の間が設けられて、まずかったかなと狼狽えると「だよね」と言葉が落ちる。
特別な音もなく吐き出された白煙が換気扇の渦に吸い込まれて「もう慣れたと思ったんだけどなー…多分あれだろうな…」と呟く言葉も続く。
こういう、勘が良くて自分は気にしない小さい事にも気が付くような善さんが『多分』と予想でものを言う時は昔から大概決まって心未の事だ。
「はー…。あいつが男嫌い克服したら
それには芹が「確かに」とケラケラ笑い声を立てた。
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