代わりに溜息が吐かれる。
「連れて帰るけど、」
壁ドンされたままの天野さんを一瞥した。
「もう
「…」
言葉に詰まる天野さん。多分この場で一人だけ解っていない私に知愛くんが「牽制」と短く口添えしてくれると天野さんの答えを待たずに家に上がっていった。
顔を見合わせる私達(間から知愛くん)。数秒後にはすうすうと眠ったまま抱えられる心未が出て来て安心するも、善くんはそれに心配と疲れを混ぜたような表情で
「アタシが来たって言わないで」
と、通り過ぎざま天野さんを一蹴。
「痛ぁっ…え、
「……うるせぇな…車あ
「!」
「間違えた。ごめんねキリティー」
どうしてか私に謝る善くんだったけど、私には知愛くんが言った『牽制』の意味も、
今の今まで一切の揺らぎなくずっといつも通りだった口調が崩れた原因も わからなかった。
—————
————
——…
▶︎ side NAZUNA ▶︎
ブブッ
「ナズナ、スマホ」
ズルズルと我ながら美味しそうな音を立ててカップラーメンを啜っていると、その音に掻き消されたらしい通知を指摘されスマホを手に取った。
「誰からだと思う?」
「バカか。若だろ」
「え〜! 何で判った、凄」
驚きながら操作すると、
『15分後 心未ちゃんの家の鍵開けておいて』
と連絡が入っていた。
「よっしゃ15分なら食える」
了解ですと返信すると向かいに座って日曜昼間の旅番組を観ていた芹が不思議そうな表情をしたから「心未んちの鍵開けておいてって若が」と頬張りつつ説明。
「15分て…確実に近くにいる前提だな」
「!? たっ、確かに…! 何でバレてんだ!?」
思わず辺りを振り返る。GPSか盗聴か。
「俺、今日別に此処に居ろって言われてないよな…? 昨日本家で会った時此処に置いてあるカップラーメンが美味かったっていう情報は貰ったけど」
「それだわ。ナズナ誘導されてんだよ」
「誘導…!」
誘導って、尋問じゃなくてもあるのか。 流石若…。
「まーいいや。俺も若にちょっと訊きたい事あったし」
引き続き啜る。まんまと嵌められたとはいえ美味いのは本当だった。
「あ。若に会うならこのファイル渡しておいて」
芹は持って来ていた黒いA4ファイルが覗く紙袋を寄越す。
「え。これ渡しに来たんじゃないの。自分で渡せばいいのに」
こういういかにも怪しい物を人伝に渡そうとするなんて生真面目な芹にしては珍しい。その意味を込めて言うと「んー、と思ったんだけど何か今日は嫌な予感するからいいわ。俺がおまえに盗聴器仕掛けてるから心配ねぇし」と返ってきた。
「え? っていうか嫌だよ、芹のその予感当たるじゃん」
「なー。はい行ってらっしゃい」
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