自分で言っておいて虚しい。



「さー行った行った。丁度良かったわ。一人で自棄酒する気満々だったけど、それにしては誰かに聞いてほしい事ありすぎたから」



「えぇ〜おれまだいいって言ってないのに」



余程——一体全体、善のどこにそこまで恐れる部分があるというのか——善にバレるのが怖いのか、なかなか了承しないナズナの背を押して半ば無理矢理に降りてきた階段を上がらせた。


350mlサンゴー缶一本だけな?」


渋々、といった様子で鍵を開けるナズナに「あんた一本も二本も変わらないのに」と買ったばかりのビニール袋の中を見返す。今度また三人で飲む時用にと桐とナズナの分も買っておいたんだった。良かった。



「前髪長くない?」


玄関に入った所でさっきからちょっと気になっていたことを聞いてみた。


「あ〜やっぱそう思う? 俺ももっと短いのがいいと思ったんだけど」


「イケメン〜って煽てられて発言権見失ったんでしょ」


「見てたのか!?」

「わぶ」


ウーフ⚫︎スだったかのサンダルを脱いで上がった所で勢いよく振り返ったナズナに躓く。


鼻が思い切り奴の背中に刺さった、瞬間、ふわりと嗅ぎ憶えのある柔軟剤の香りがして。


鼻より先に胸が痛んで答えを知らせる。



「ちょぉ…ナズナ、善の服も一緒に洗濯した?」



ああ。


善の相手。いっそナズナだったらまだよかったのにな。



「洗濯? あー、これ。違うよ、これ善さんの服。お借りしてんの」



くっ、余計な事を。


それでこの家も微かにその香りがするのかと何だか悔しくなって、ナズナの背中越しに善を小突いた。


不思議そうな顔をしたナズナは私の指からビニール袋を攫い、私と自分の分の缶だけ出して、桐の分は冷蔵庫、適当なおつまみは袋に入れたままローテーブルの脇に置いた。


ナズナの家はナズナの家らしくなく、いつも文未が片付けてくれた後の私の家に次ぐくらいには綺麗にしてある。


「うちにもつまみあったな」


一度席に着きかけて再度キッチンへ向かうナズナを差し置いて、私は勝手に缶の蓋を開けた。


「あっ、こら心未」


「あーあ! ナズナが善の恋人だったらよかった!! 乾杯!!」


支離滅裂だ。言いたいことだけ言って一気に喉を通したお酒が——さっき自分用にと用意した、背伸びした度数のお酒ではないことに気がついて——まんまとナズナに桐用の物と擦り替えられていたことを気付き、また悔しくなった。


「ぜってーやると思ったからな」


呆れた表情のナズナを睨んで握った缶に視線を落とすと、やっぱりアルコール度数は3%しかなくなっている。味もいつもより甘味が強くて美味しく感じた。



「俺が善さんの恋人って何の話」


キャンディーチーズの入った袋片手に戻ってきて、向かいに座ったナズナは遅れて自分だけ度数の高い缶を開けた。



「何…善って、鍛えでもしてるの」


身体を見た事がないなんて勿体ない。そういう言い方だった、あの女。



「あ? 最近って話でもないけど体動かしたいって言ってた時あったな。ほらうち・・男ばっかだし、誰かが置いていいー?って機械置いたりしてたから」


「ちっ…余計なことを」


「何で爪噛んでんの?」



初めて会った時高校生だった善は、今よりもっと子どもだった私から見たら性別の差なんて感じられない程“美人”そのものだった。


ああ、“美人”ってこういう人間の事を言うんだなって思った。



「善、背もあるんだしわざわざ男に寄せなくたっていいじゃん」


「男に寄せるって。善さんは男よ?」


「…わかってるよ、


めっちゃくちゃえっち上手いって聞いたし」



「な!?」

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