第11話 妹のお迎え
▶︎ side KIRI ▶︎
「知愛くーん。私はいつまで抱えられていますか」
あっという間に過ぎ去った送迎の後も心未が心配で心配ででも先輩である天野さんの事を信じたい気持ちもあってぐるぐるしている中、ハッとして質問した。
知愛くんは私を抱えたまま自宅の玄関ドアを開けたところ。ああ、と思い出したように私を下ろす。
じ…と見上げれば考え込んだように立ち止まり、私を見下ろしながら顎に手を添えた知愛くんに、彼も彼なりに旧知の仲である善くんを心配していたりするのかなと思った。
「やっぱ鎖で繋いでおくか」
え?
全く結び付かない一言を吐き、スニーカーを脱いだ知愛くんは先に上がる。
「ダレを?」
追い掛ける言葉に「おまえ以外誰かいんの?」との返事。
何故に私。
知愛くんは不思議なことを言うなと思ったが、今はそれどころじゃない。慌てて彼を追い掛けた。
「あつ…」
「冷房つけ—る、ね」
不自然なタメ口。その度不機嫌そうな知愛くんだが、頑張って矯正中だ。今もやはり不機嫌そうな背中を見せて冷蔵庫を開けている。
無意識にソワソワ落ち着かない私は冷房のボタンを押した後リモコンを持ったままリビングに面した寝室の、タッセルに留められていなかったレースを纏めたり、床にゴミが落ちていないか確認。落ちていないのに廊下途中の収納から箒を持ってきたりした。
「ヤメロ」
後ろから伸びてきた手に箒は回収される。
「落ち着け。ブラインド上げて来い」
「はい」
出る時に下げたブラインドを指され、小走りで従う。
ぱたぱたと折り畳まれていく木のブラインドを見上げ、晴れた外の明るさに目を細めた。
「リモコン何処やった?」
「あ」
いつの間にか手を離れていたリモコンは寝室のベッドサイドに見つかって、取って戻ると彼は私の分も用意された麦茶を飲んでいた。
「すみません。ありがとうゴザイマス」
リモコンを元の位置に置いて席に着き、麦茶の入ったコップを両手に取った。
「何ヤッてんだろーな?」
「ぶっ」
唐突に悪戯顔した知愛くんが覗き込むから、驚いて早速麦茶を噴いた。
「…」
「すみません。何やってるって…会話?」
「…。桐」
「ん」
「きーり」
「……」
零した麦茶を拭いてから飲み直す私の名を、二度目は甘えた声色で呼んで長い指先を手首に這わした知愛くん。
その指先には、小さな赤い痕があって。
僅かに肩を揺らした私を見逃さない彼は続けて「昨日の、夜」と整った唇を開く。
「よ、る?」
「日付け変わった頃って俺ら、何してたっけ」
「…………」
時計を一瞥して。
自分でもわかる。みるみるうちに肩から顔まで真っ赤に染め上げられていくのが。
「
「うっ…そんな、おじさんくさい台詞、わざとですよね。
顔で許されようとして」
「まー実際俺の方が先におじさんになるしな」
嘘だ。
知愛くんは妖怪だから絶対おじさんにはならない。
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