第10話 そこは嘘吐けよ
7月の誕生日。小さい頃から——もとい、善の家に通うようになってから此処でどんちゃん騒ぎが恒例だった。
善の家。広ーい日本家屋の実家だ。家の人、会社?の人、“皆”いる。
「若」
向かいに座っていた
ナズナが席を譲って詰めると、代わりにスーツ姿の善が視界に入る。
「心未ちゃん飲んでる?」
「…ウン」
ヒック、と大袈裟なしゃっくりと共に返事が出て、腰を下ろしながらあははと笑う善。
——危ない。好きだと言ってしまいそうになる。
「あのさぁ。毎年毎年疑問に思うから毎年毎年訊いてると思うんだけど、何で私の誕生日会皆スーツなの?」
「そりゃぁ愚問よ。めでたいことだからでしょ、結婚式なんかと一緒。毎年毎年答えてるけど」
「あのちーーさかった心未と酒飲める日が来るなんてなぁ」
へらへらする善。隣の芹も勝手に呟き始めて「芹。それ一昨年から毎っ回酒の席で言ってる」と睨むと「えー? なら毎年毎年言っちゃうかもな〜」と酔っ払い顔を向けられた。
「で? 心未、22歳の抱負は?」
「お〜それアタシも訊きたぁい」
「無事卒業」
「つまんな」
急に冷めた顔をされてむかついて、長机挟んだ善に拳を振り翳すも当然届かない。
「来年新社会人だろ? 厄介な“身内以外の男嫌い”治しておかなくていーの?」
「治しておこー★で治せるもんでもないのよ。生きている間にもう一度あいつと会って、謝られるような事が万が一にもあれば一発で治るかもね」
「それもうほぼ可能性0じゃん」
「…」
「若?」
黙って話の行く末を見守っていたナズナが問い掛けると「心未ちゃん、男嫌い克服したいの?」と訊いてきた。
「まぁ…現時点でも何かと地味に不便なのよ。例えば美容室とか、わざわざ女の人を指名しなきゃならないから指名料かかったりするし」
「確かに地味だな。バイトとかも今は若が禁止してるけど、禁止されてなかったら適当に選べないもんな」
「そーね…」
丁度空になったグラスの底には、ぼやぁっとした照明が反射している。
「若、ちょっと今いいですか」
タイミングを計らっていたかのように声を掛けられた善は「じゃ、ゆっくり飲んで。心未ちゃんは強くないんだからお水もね」とこの場を後にした。
「こういう時も忙しそうだよな」
「どーせ美鮫あたりに呼ばれたんだろ」
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