そう口にした天野の目には揶揄いと好奇の色が混ざっているようで。
だから、男は嫌いだと。瞬時に心の中で呟いていた。
上からで、高圧的。
優しく見えても心の中では私等女を、どうせ力では敵わないと見下している。
どうにでもなると思ってる。
だから善が好きだった。
優しく見えても、見えなくても、台詞だけじゃない寄り添うということをこちら側が教わるくらい簡単にやって見せてくれた。
後者で指されたベッドが見え流石に返し淀むと、それを見た天野が問うた。
「触られる程度も無理?」
「無理」
「そっか。でも触らなきゃ何もできないから触るね」
弱く手首を掴まれ、びく、と身体を揺らすも天野は離さなかった。
そのまま連れ込まれるというよりかは抵抗が敵うくらいの力で寝室に立ち入る。
解放された手首にほっとしたのも束の間、その流れでTシャツに手を掛けた天野はあっという間にそれを脱いで床に落とした。
薄暗い中、背中だけでも判る、自分とは構造の違う身体つき。
「俺、心未ちゃん割と好印象だよ」
「は?」
僅かに振り返った次の台詞に率直な感想が出る。
「いかにも
馬鹿にされているのだろうか。
ベッドに座る天野を疑っていると「見下ろされるのが嫌かと思って」と、案外真面目な表情で付け加えられて、少し、少しだけ長いこと強張っていた糸が緩んで。
「…男って」
「ん?」
「好きじゃなくても好きなひとにするような事、できるの」
何となく、心の何処かでは気になっていたことを訊いた。
「んー…まぁ、できるかな。申し訳ないけど」
『申し訳ないけど』。
「何で」
「何でって——えーと心未ちゃん、“性欲”って知ってる?」
…善も。
いや、善は、ちゃんと好きなひととそういう事をするだろうか。
私がこんな、周りに迷惑をかけてまで善から離れようとしている間も、善は、
私の知らない誰かと、
こういう状況になっていたりするのだろうか。
あの、頭の上で弾む程度にしか触れて来ない優しい手で触れて。
サラサラな細くて明るい髪に触れさせて。
嘘とか、偽りとか、強がりとかなく、笑っているのだろうか。
ああ、考えるだけでもやもやする。苦しい。辛い。嫌、だ。
善——
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