第4話
好きだったというか。
まだ現在進行形で好きなのかもしれない。
それを認めるのは自分相手でも恐いだけで。…兎に角、
だとしても、善は“そう”じゃない。
私の事を好きになる事はなかった。
22歳の誕生日、本心を聞いてしまったあの日から、
離れなくてはと思い続けて、でも、そう簡単に、上手くはできなくて。
簡単に諦めきれないくらいには膨張したこの想いを抱え続けたまま、ずるずる一年が経とうとしている。
早く、早く解放してあげたいと気持ちばかりが逸る。
それだって本心の筈なのに、もっと深い所に刻まれた想いがまだ追いつけていない。
「お待たせ」
カタン、と音を立てて目の前にトレーが置かれる。
沈んだ目に鮮やかに映ったのは、桃のタルト。と、その奥に甘そうな飲み物と何かお洒落なサンド。
トレーから離れて椅子に掛かる手。握られたレシートの裏に手書きの英数字が見えて嫌な勘が働いた。
「今時…」
思わず溢れた台詞は、呆れに見せかけたヤキモチだったかもしれない。
「んー?」
「それ、ID? 見えてる」
「あぁ。これは宣伝的なあれよ。友達増やそう的な」
「口開かなかったらただの光源氏だもんね」
…あーあ。また可愛げレベル−7000くらいの事言った、と一人で凹んでいると、向かいから動揺も何も含まない「ただの光源氏て」の朗らかな笑い声が聞こえてきた。
そうして当然のように桃のタルトが寄越されて。
小さく唇が尖る。
「善 お昼少なくない? …本当はもう食べてきたでしょ」
「ぶっぶー。これからの予定ですー」
「は〜!? じゃあ何で誘った」
「何でって」
善は目の前にあるおひるごはんに手を伸ばすより先に、組んだ腕を丸テーブルの上に乗せて囁いた。
「心未ちゃんがへこんでいるような気がして」
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