第16話
「……悪夢、見なかった?」
目を開けた弾みで何者かの後を追うように起こした身体は、嘘みたいに軽かった。
背後からは朝日が柔らかく差し込み目の前の炬燵テーブルを照らしている。
雨は降っていない。濡れてもいない。代わりに、控えめに鳴っているアラームを止めた後のタブレット画面にいつもの文が打ってあった。
“ 今日の朝・昼おかずは冷蔵庫、米は冷凍庫
米の解凍はそれぞれ500Wで3分10秒
弁当、おかずだけ持って行かないように注意 ”
まったく、気付かなかった。
何なら帰ってきてからあやふやな記憶だ。
腹部を見下ろせば仕事着からうさぎ柄のラブリーパジャマに着替えている。何だ、無事脱げていたのか。
次に目に入ったのは綺麗に畳まれた仕事着。
これは…昨日着ていたもの。
その隣に、恐らく今日着る用の仕事着が支度されている。という事は、やっぱり。
昨日、私が寝落ちた後も“来て”いたのか。
今回は冷蔵冷凍分けたのか…と起き上がり、ぽりぽり太腿を掻きながら先ず冷凍庫を開けると、見易い目の前に転がせば転がって行きそうなほど均等のとれた、胡麻が塗された三角おにぎりがラップに包まれて二つと、保存容器に入れられたお弁当用らしき物が。続いて冷蔵庫に焼き海苔、たくあんが添えられた皿、曲げわっぱの弁当箱が既に風呂敷に包まれて準備されていた。
「ありがたぁ」
こうして限界を迎える頃にやって来ては私の居ぬ間に家中の掃除をし、作り置きまでもの家事を終え快適な寝心地を整え次の日の服やご飯まで支度していく、
誰か。
どこからどこまでが私が帰ってくるまでで
どこからどこまでが私が眠った後やっているのか、それさえ把握できていない。
遭遇した事は 一度もないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます