第17話
▽ ▽ ▽
PC画面の右下で12時を超えている事に気付き、キリの良い所でタイピングの指を止める。
デスク下の鞄から、実は朝から頭の片隅で楽しみにしていた黄色い大波柄の風呂敷を取り出して内心るんるんで席を立った。
「ぁ、桃実さんもお昼行く?」
不意に声を掛けられ振り返った先の同期の中に“男”が入っているのを見て、反射的に「ごめん」と口が動いた。
最寄りのコンビニに立ち寄り、烏龍茶だけ買って出た所で
向こうから来た人物と目が合う。
「善」
疑問符が付くより早く名前を口にしたその人物は、きょとんとした表情から釣られそうになる柔らかい笑みに変わって、雑音の中「ここみちゃん」と応えて歩み寄る。
「偶然ね。お昼?」
私が両手で抱えていた風呂敷を一瞥し、尋ねてきた。
短く頷くと「アタシも」と出てきたコンビニの隣のカフェを指した。
「何で善が此処に」
「テイクアウトするから一緒に食べない?」
「…私はいいけど。予定ズレるよ」
善の事だから、予定はこの後も詰まっているのだろう。
そう予想して言ったものの、善はさきの柔らかい笑みを崩さないまま視線だけを動かして、
「あ、丁度空いた、日陰。座って待ってて」
テラス席を指す。追って見てわかった、と進もうとすると、店内に入っていくものと思っていた善は私を追い越し、グレーのシェフパンツのポケットから煙草とライターを取り出して席に置いた。
向かいの席で立ち竦んだ私に気付く善。
「煙草? 吸うの」
「…いや? これは知愛くんの」
「何用?」
今の間は何だと眉を顰める私に、見透かしたような声色で「アタシが居ない間に心未ちゃんに変な虫がつかないように、虫除け用よ」と答えた。
虫除け用?
その為にわざわざ他人の煙草を借りてきたと? 善が?
益々眉の皺を深める私に善は微笑んで、買ってくるわね、と店内へ向かって。
私は、重たい椅子を引いた。
————私、は。
善が好きだった。
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