狂気の手記
亜諭
第1話
10月24日
貴方の声が聞こえなくなってもう3年になる。
貴方の顔を見れなくなってもう2年になる。
憎らしい事に、何の不自由なく過ごせている。
やはり僕は愚かだ。
貴方を感じられずとも毎日の食事の味はする。
ねぇ、教えて欲しい。
僕が貴方に抱いていた感情は本当に愛だったのだろうか?
貴方を感じる事を辞めてから色々な人に言われるようになったんだ。
『もう辞めなよ』
何故か皆それだけ言って去って行くんだ。
僕は貴方を愛してなかったのだろうか。
それなりに貴方に愛を注いでいた筈だったのに。
ねぇ、ちゃんと愛していたよね?
そもそも僕は恋愛に興味なんて無かったんだ。
貴方なら知ってるだろう?僕がどれほど他人に対して無頓着かを。
皆はそれを知らないのだろうか。
僕は貴方だから執着していたし、貴方だからずっと傍にいたかった。
これは嘘じゃない。
でもあの感情が愛なのかを聞かれると首を捻らざるを得ないんだ。
ずっと分からなかった。
でもね、これを書いてるうちに段々分かってきたんだ。
僕が貴方に抱いていた感情は愛なんかじゃなかった。
そんな大層な感情じゃなかった。
僕はただ、貴方になりたかった。
貴方は僕より優秀で、運動に関しては超の付く好成績。
綺麗な顔で気さくで優しい貴方は色んな人から好かれている。
僕は見事な程に間反対。
でも、それでも他人に対する嫉妬は人一倍強かった。
他人に無頓着だなんて嘘だ。
僕が都合良く作りあげた虚像。
だからあまりにも貴方が羨ましくて、妬ましかった。
そんな負の感情は僕を尋常じゃない程貴方へ執着させた。
それに気づけなかった僕は病的な程の貴方への執着を愛と勘違いしたんだ。
嗚呼、そうだ。
そうすれば全ての矛盾に説明がつく。
だからあの時僕は貴方の体が、全てが欲しくなった。
だから貴方はもう、、
そうか、だからか、嗚呼、もう辞めよう。
あの時の僕の行いの意味を探すために書き始めたこの手記は、僕の遺書へと変わりそうだ。
貴方はもう人の原型を留めていない。
何故ここまで気づけなかったのか、もはや化け物と化した貴方を。
吐き気を催す程の異臭。
気づけば部屋中にハエや蛆虫が湧いている。
僕の膝にも沢山のハエが死んでいる。
これは執筆の邪魔だったのだから仕方がない。
この異臭に気づく人間がいないのは当たり前だ。
そもそもここに人が住んでるのことすら知ってる人は少ない。
ああ、ということは僕も誰にも見つけられず骨になるかもしれないのか。
それは嫌だな。やはり窓を空けておこう。
これ程まで冷静にこの遺書を書けているのは、これまで普通に暮らせていたのは僕が狂っているからだろうか。
やはり僕は人間に向いていない。
せめて最後まで執着し続けた貴方の傍で終わらそう。
追記
この手記、及び遺書を発見した貴方へ。
この手記及び遺書は必ず警察へ届けて下さい。
いや、普通なら警察が一番最初にこの部屋へ入ってきますね。
最初から最後まで読んでくれれば分かる通り、3年前の大学生失踪事件の犯人は僕です。
失踪した大学生は隣でもはや化け物となってしまった彼です。
僕の死をもってこの事件は終わりにして下さい。
狂気の手記 亜諭 @ryomga519
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