第三章 聖なる鐘が響く夜

第一話 until Christmas(1-2)

 街はクリスマス一色に染まっていた。クリスマスソングがどこからともなく聴こえてくる。

 天井までそびえる巨大なクリスマスツリーを眺めれば、これでも私も女子の端くれ。つい気持ちが浮き立ち、楽しい考えごとに耽ってしまう。

 キラキラと光るイルミネーションがふんだんに巻きついたそれは、とても豪華だ。

 先日、ふと思いついて天野先輩に、「今、一番欲しいものってなんですか?」と聞いてみたところ、「私が欲しいのはあなただけよ」と間髪入れずに返された。

 聞きたかったのはもちろんそういうことではない。しかし、私の思惑なんてお構いなしの彼女が続けた次の言葉はこうだ。

「その他の大抵のものは自分でなんとかできるわ」

 ……そうですよね。天野先輩はそういう人です、わかってました。

 きっぱりと告げられた台詞に二の句が次げず、会話が終了したことを思い出す。

 確かに、彼女のその反応は想定内ではあった。

 なぜなら、先月末に生徒会長の任期を終えた天野先輩に、お疲れ様の意を込めて同じ質問をした結果、恥ずかしながら、その場でしっかりと貰われてしまった私である。

 だけど、クリスマスは。クリスマスは少しくらい、何かこう、それらしいことをしたいのだ。

「もし」

「プレゼントって言えば、ほら。何か、それっぽいリボンをかけた素敵なラッピングでね」

 風紀委員会も代替わりが行われ、委員長に水無月、副委員長に私が任命された。

 そして、その日は天野先輩のお宅で二人だけのささやかな祝賀会をして、そこでまた天野先輩に美味しく頂かれてしまい、なんだかなぁ、な一日となった。

 クリスマスこそはその雪辱を晴らすべく、何か対策を練らねばならない。負けないぞ、と私は拳を強く握る。

 彼女の意表を突くような何か。ない知恵を絞って、うーんと考える。

「あなた」

 そんな私の思考を、苛立ったような声がぶった切った。

 派手なクリスマスツリーの傍らに、高級そうな応接セット。長い脚を無造作に組んで、けれど見るからに品のある女子生徒が私を見据えている。

「何を考えていらっしゃるの?」

「え? だから、クリスマスプレゼントの――はっ!」

「わたくしの前でそんな阿保面をしてみせるとは、大した根性ですわね」

「君はマッチ売りの少女か何かかい? 弥生さん。それより、宝生ほうしょうさん。例年通り、歌の発表は一、二、三年生の順番で構わないね?」

 皐先輩の困ったような声と、空調の効いた温かな室内。イベント事にはそれほど関心がないほうだったはずなのに、豪華なクリスマスツリーの電飾に、うっかり幻覚を見ていた。

 向かい合わせのソファ。私の隣には皐先輩。その正面に、ものすごく不機嫌そうな表情を浮かべた女子生徒がいる。我に返れば、ここは生徒会室なのだった。

「す、すみません! 私ったら……」

「舞先輩の部下を務めていたというだけあって、無礼な方ですこと。持て余していらっしゃったんじゃないですか? 皐先輩」

「君に言われたくないよ。宝生さんが推薦した生徒会役員と来たら、一ヶ月と続いた試しがないじゃないか」

 深い輝きを湛えた双眸にクリスマスツリーの電飾の明かりを反射させたその人は、今期の生徒会長に抜擢された、二年生の宝生ほうしょう初花はつかさんである。彼女の背後の壁には、“宝生天下”と墨書きで大書した張り紙が貼られている。

 宝生先輩は、再び私に視線を向けた。

「あなた、望月弥生さんといいましたわね」

「は、はい。あの、すみませんでした」

「中々に人を食った女性ですが……まあ、気に入りましたわ」

「は?」

「は?」

 思わず深く頭を下げた私と皐先輩の声がシンクロする。

 風紀委員会室に向かう最中、ばったりと遭遇した皐先輩から、「今月の合唱コンクールに関する会議をするから、君も来てくれないか?」と言われ、連れて来られたのがここ、生徒会室である。

 宝生先輩は入学当初から生徒会役員を務めており、常に優秀な人材を捜していたが、彼女の厳しい審査基準をパスした者はほとんどいないと聞く。

 仮にそのお眼鏡に適ったとしても、宝生先輩のストイックさについて行けないと、辞表を出す者があとを絶たなかったそうだ。

 それゆえ、先代の生徒会役員はたったの三人しか残らず、前生徒会長である天野先輩は、ひどく頭を痛めていたとかなんとか。

 そして、受験生であるはずの皐先輩が合唱コンクール実行委員長としてこの場にいるのは、そんな宝生先輩のストッパー役に徹するためらしい。

 元々彼は学年でもトップクラスの成績を維持しており、志望校も余裕で合格圏内であることから、他の三年生に比べると、比較的余裕があるように見える。

 それでも、大学受験を控えていながら、合唱コンクール実行委員長を務める皐先輩のバイタリティには、ただただ感心するしかない。

 尤も、会議中に別世界に飛んでいた私も大したものだと思うが、それは威張って言えることではないだろう。

「時に、弥生さん。クリスマスプレゼントで悩んでいらっしゃるのなら、このカタログの中からお選びなさい。あなたからの贈り物でしたら、受け取って差し上げますわ」

 そう言って、どこぞの会社のカタログを差し出す宝生先輩。

「はい?」

「ついでに、生徒会役員に任命します。薄暗い風紀委員会室の中に閉じこもっているより、よっぽど有意義な時間を過ごせますでしょう」

 畳みかけるように言葉を連ねながら、宝生先輩はにやりと唇を歪める。

「やめてくれないか? 風紀委員会が人手不足だっていうことを知らない君じゃないだろう」

「口出しをしないでいただけますこと? わたくしは今、弥生さんとお話をしているんです」

「口出しせずにはいられないよ。この子に手を出されたら、僕の身が危ないんだ」

「え、そっちの心配ですか……?」

 皐先輩を横目でじろりと見れば、彼はわざとらしく咳払いをしてみせた。

 それにしても、宝生先輩の思考回路ってよくわからない。わからないが、この尊大な態度も仕方ないと思えるレベルの風格ではある。

 けれど、そんな宝生先輩に怯むことなく、堂々と意見を述べることができる皐先輩もすごい人だと思った。


 ***


「ちょっと、舞。どういうつもり?」

「水無月が、あなたと弥生にって。少し早いけど、クリスマスプレゼント」

「それはさっき聞いたわ。私の疑問は、なぜこれを寄越すのかという点よ」

「ああ、水無月には少しサイズが大きいらしくてね。本当はあの子に着せたかったんだけど。ほら、ちょっと見てみなさいな」

「お、お待ちなさい、舞!」

 彼女との会話が噛み合わないのは、今に始まったことではない。

 紙袋の中から赤い衣装のようなものを取り出そうとしている舞の突拍子のない行動を、私は慌てて止める。

 中途半端なところで手を止めたまま、白々しい笑みを浮かべる舞は、腹立たしいほどに機嫌がいい。

「クリスマスといえば、恋人たちの一大イベントでしょう? 身近でうざったく騒がれるのは癇に障るけど、私だって、あなたたちの聖なる夜を祈るくらいの優しさは持ち合わせてるからね」

「……」

「何よ、その沈黙は。もしかして、こういうのは嫌いだった?」

 ……決して嫌いではない。

 いや、だが、ここは放課後の学内カフェである。しかも、周囲には軽食を注文している生徒もいる。場所柄を弁えなさいと声を荒げたい気持ちを抑えて、ぐっと黙り込む。

 わざわざ私の席へやって来て、お茶に誘ってきたかと思えば、この珍妙なプレゼントと引き換えに、自分の嫌いな練乳がかかっているデザートをこちらに押しつけようとする舞の姿に、微かな苛立ちを覚えた。

「あら、いけない。私、このあとは用事があるんだったわ。とにかく、渡したからね。人の厚意を無駄にするんじゃないわよ。それじゃあ、また」

 ようやく私の本気の怒りに気づいたらしい舞が、そそくさと席を立った。

 押しつけられたものを手にしばし呆然としていたが、腕時計の針は下校時間まで残りわずかとなっていることを指し示す。デザートを平らげ、私も食堂を出た。

 校門へ向かう前にふと思い立ち、普段使用されていない空き教室に入って施錠をし、そこで私は袋の中身を確かめた。

 さっきもちらりと見えたこれは、恐らく――いや、間違いなく。

 ごくりと喉が鳴る。

 引き出してみれば、やっぱりそれはサンタクロースの衣装の女性版であった。こんなものをじかに見たのは生まれて初めてだ。

 私の認識が間違っていなければ、これはいわゆる、社交飲食店の女性店員が客の目を楽しませるために着用する類のものだ。あるいは、コスチュームプレイと呼ばれる行為に用いられるものだろう。

 細い肩紐が印象的な赤いドレスは明らかに胸元が大きく開いていて、驚くほど胴が細く、広がったスカートの丈は下着が見えそうなほどに短い。

 胸元と裾には、そこだけが申し訳程度にサンタクロースを模した白い起毛の飾りがついており、ご丁寧に共布の帽子と長いグローブまで付随していた。

 まったく、厄介なプレゼントを押しつけられたものである。どうするべきか。

 自宅に持ち帰って弥生に見つかり、変態呼ばわりをされても敵わない。だからと言って、学内に置きっ放しにすることも到底考えられない。

 手にした衣装に視線を落とした私は、再びそれを袋に戻した。


 ***


「いいかい、弥生さん。個人的な用事で、宝生さんに近づかないように」

「どうしてですか?」

「気を抜いてると、ひどい目に遭うからだよ」

「はあ」

「彼女が本当に募集してるのは、生徒会役員なんかじゃない。自分の恋人なんだ」

「はあ」

「君がそんなことになってしまったら、天野が――」

 そう、それなの。天野先輩なの、問題は。彼女へのプレゼント、どうしようかな。

 成り行きで肩を並べて廊下を歩きながら、何事かを語る皐先輩は、いつになく真剣な表情だ。

 そんな彼の手に握られている通学鞄と手袋をなんの気なしに見る。それは、赤味がかったブラウンの革手袋だった。

「彼女の実家は全国トップクラスのレザー商品の専門店なんだけど、そこでも恋人探しという黒い野望を展開させてて――」

「レザー……」

 またもや自分の思考に沈んでしまった私から、いつしか皐先輩の声が遠ざかる。

 さっき宝生先輩に見せられたものは、素敵なレザー商品が綺麗にレイアウトされたカタログだった。

 それに、あざとい私は聞き逃さなかった。「あなたなら、六掛けにして差し上げますわ」と言った、宝生先輩のスペシャルなひとことを。

 レザージャケットや鞄みたいな大物は値段的に手が届かないけれど、小物なら私でも買えるのではないだろうか。

 天野先輩の持ち物は、エレガント系のものが多い。

 私が名前を知らないようなイタリア製やフランス製のブランドがお気に入りのようで、キーケースに財布、手帳など、優美なデザインのそれらは彼女にとても似合っている。

 物をとても大切に扱う人だから、上質の品を一生ものとして使うポリシーなのだそうだ。

 だけど、最近私は気づいてしまった。彼女のレザーグローブが、大分傷んできているということに。

 レザー製品は使い込めば風合いが増してより味わい深くなると言うけれど、天野先輩の手袋は、そろそろ新しくしてもいいのでは? という頃合いに見えた。

 そうだ、そうだよ、レザーだよ。

 意表を突いているとは言い難いけれど生活必需品だし、天野先輩の好まない無駄なものではなく、現実的だ。

 それに、外出をするときなどに手袋を嵌めて、私のことを思い出してくれたりしたら、嬉しいじゃない?

 これはいいアイデアだ。手袋なら値段も手頃だし、よし、決めた!

「――というわけなんだ。わかったかい?」

「はい!」

「……どうしたんだい? 妙に元気のいい返事だね」

「そ、そんなことありませんよ。いつもと同じです」

「そうかな?」

 文化祭、体育祭に続いて行われる合唱コンクールの準備も、各委員会の協力もあって、あらかた済んでいる。

 私たち風紀委員会は、イベントに乗じて羽目を外しすぎる生徒がいないか見回るだけだし、懸案だった天野先輩のクリスマスプレゼントも決定して、あとは買いさえすればいいと思った私は、いつになく完全に舞い上がっていた。

 そうなれば、俄然楽しみになってくるクリスマス。

 職員室に用事があるという皐先輩と途中で別れ、遅ればせながら風紀委員会室に顔を出せば、なんだか嬉しそうな水無月と、どういうわけか今日も来ている部外者の女子生徒が、揃って声をかけてくれた。

「あ、弥生ちゃん、待ってたよ。今、お茶を淹れるねぇ」

「やあ、弥生。遅かったじゃないか」

「ありがとう、水無月。燕先輩ったら、また来てるんですか? この受験シーズン真っ只中に」

「アヴリルを出し抜いて、あんたに会えるなんて最高だね。あたしは日頃、しっかり勉強してるから大丈夫なんだよ。それより、はい。これ」

 水無月がいそいそと運んでくれた私のティーカップの横に、可愛いらしいラッピングの小さな包みが置かれた。クリスマスカラーで、先端にくるくると巻かれた素敵なリボンが掛かっている。

「なんですか?」

「クッキーさね。水無月と一緒に食べておくれよ。ところで、弥生はクリスマスの予定って、もう決まってたりするのかい?」

「え? ええ、それはもちろん……」

「そうか。あんたさえよければ、あたしと過ごさないかと思ったんだが、先約があるなら仕方ないね」

 燕先輩という人は敏いし、鋭い。それなのに、どうしてそんなことを言えるのだろう。

 私が天野先輩の恋人だということを忘れた振りをしているのか、それとも天野先輩の存在をわざと無視した上での戯言なのか。とにかく、時々変なことを言い出す。

 天野先輩へのクリスマスプレゼントに悩みすぎた私は、天野先輩と基本的に仲がいいはずの燕先輩に相談をしようかな、なんてちらっと考えてしまったのだけれど。

 それだけはやめておいて本当によかったと、目の前でにこにこと微笑んでいるボーイッシュな美女を前にして、心の底から思った。


 ***


 エントランスには常緑樹の低木。そこで暗証番号を入力し、オートロックを開錠すれば、共用廊下が奥へと続く。

 手前の階段の脇に設えられた小さな花壇にも黄緑色のコニファーが植えられ、電飾が巻きついているそれは、夜にもなればクリスマスの風情を醸し出すことだろう。

 大抵の週末は、弥生が私の家を訪れて逢瀬を重ねるため、私がここに来ることはあまりない。

 足音を立てないよう、できるだけ静かに踵を進める。

 不意に、エレベーターから下りてきたこのマンションの住人女性が、こちらをじっと見ながら脇を通過していくのに、身が縮まる思いがした。今の私には、その女性の頬が赤く染まっていたことに気づく余裕はない。

 自分が、生涯に一度でもこんなことをするとは考えもしなかった。

 三階の奥。弥生の住居の前に立ち、わずかな逡巡のあとに意を決して、インターホンを鳴らした。この時間帯なら、弥生はまだ校舎にいるはずだ。

 そんなことを考えている間にも、軽い音を立てながらあっさりと錠が外れ、開け放たれた玄関扉から、過去に何度か会ったことがある弥生の母が顔を出した。

「あら、あなたは……」

「こんにちは、天野です。お久しぶりです。その、今日はおば様に折り入ってお願いしたいことがありまして、こうしてお伺いさせていただいた次第です」

「まあ、何かしら? とりあえず、こんなところで立ち話もなんだし、上がってちょうだい。外、寒かったでしょう?」

「ありがとうございます。お邪魔します」

 オートロックの暗証番号は弥生から教えてもらったものであり、私は何も疚しいことはしていないと気を強く持とうと試みるも、恋人の家になんの報告もせずに入室するというのは、かなり気が引けるものであった。

 生徒会長として教壇の前に立ったときや、会議を取り仕切りるときでも、こんなに緊張をしたことはない。

 弥生と再会し、恋人という関係になって以来、私の考え方や行動形態が根本から変化したという事実は否めない。

 彼女に片想いをしていた中学時代には、こんなふうに姑息なことをしようと考えたことなど一度もなかったのだ。

 そもそも、幼児期を除けば、私にとって季節行事は興味の対象ではない。にも関わらず、クリスマスにかこつけて、私は一体何をしているのだろう。

 クリスマスが意味を成すようになったのは、今年から。言うまでもなく、弥生と過ごすようになってからである。

 目まぐるしく考えながらも、とにかくここへ出向いた目的を遂行しなければならない。

 弥生の母から許可を貰うと、無意識に足音を忍ばせながら恋人の部屋へと踏み込み、舞から押しつけられた紙袋を手にした私は心を無にした。

 木を隠すなら森の中。そのことわざに従って、まっすぐ弥生のクローゼットを目指す。

 そして、数分後。弥生の母にお礼と挨拶をして部屋を出た私は、マンションの敷地を出るなり、ぐったりと疲弊を感じた。

 生徒会長職を引退し、受験対策もある程度できている私には自由時間というものが与えられ、このあとは本屋にでも寄るつもりでいたが、ここで再び逡巡する。

 背後にある弥生のマンションに再び潜入して、今置いてきたものを回収する気力は少しも残っていない。

 今年のクリスマスイブは平日である。なので、今年は少し奮発した店で、弥生と食事を摂ろうと考えていた。

 食事のあとは、いつものように私の部屋で過ごすつもりだったが、「天野先輩のお家ばかりじゃ悪いですし……」と弥生から愛らしい提案があったので、今回は彼女の部屋で過ごす予定となっている。

 そのため、私はこうして普段の自分からは想像もできない行動に及んだわけだが、それは舞から仕入れた情報により、私の頭に導き出された考えでもあった。

『弥生みたいに冴えない女は、サプライズが好きな子が多いのよ。クリスマスプレゼントも、当日まで隠しておくほうが喜ぶんじゃない?』

 すべきことを済ませて息をついたのも束の間、やっぱり落ち着かない私には、サプライズというものがつくづく向いていないのだとよくわかる。

 弥生の部屋に忍び込むような浅はかな真似をした自分を、彼女に隠し通すことができそうにない。

 携帯電話を取り出し、そこに表示されている時計に目をやれば、そろそろ下校時刻になろうとしている。私は思考を切り替えて、校舎へ戻ることにした。

 彼女の顔を見て、包み隠さずすべてを話してしまえばいい。そうすれば、たった今自分が行ってしまった愚かな行動も帳消しになるような気がした。小細工なんてするものではない。

 そんなことを考えながら、元来た道を歩いていた私は数秒後、視界に飛び込むことになる信じられない光景を予想していなかった。

 この角を曲がれば、校舎へ続く坂道が姿を現すというところで、ぴたりと足が止まる。

 目の前で、こちらに背を向けた女子生徒に腕を取られた弥生が、一台の車に引きずり込まれようとしているのだ。

「弥生……!?」

 駆け寄ろうとした私の声は届かないまま、車は走り出す。

 これは一体、なんの悪夢なの?



©️一ノ瀬友香2024.

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