スタジオ

「はい。VTRをご覧いただきました。これについて、ゲストの、軍事に詳しい郡司ぐんじさんに解説していただきたいと思います。郡司さん、今日はよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「郡司さん、この現代においていったいなぜ、有人戦争なのでしょうか?」


「はい。まず、前提として現代では、ある程度裕福な国しか戦争ができなくなっています。21世紀までは、人間同士が戦ってケガをしたり亡くなったりする人もいたんですが、いくらなんでもそれは野蛮すぎるってことで、22世紀からは無人兵器同士が戦闘を代行するようになりました。国境付近のだだっ広い平原にお互いの無人兵器を集めてドンパチやって前線を相手側に押し込んで、最終的に無人機を作る工場の出入り口を溶接して出荷できなくさせた方が勝ちということで相手に政治的要求を呑ませるというのが普通の戦争です。でも、これってお互いに無人兵器を持っているからできることなんですよね。どちらかが無人兵器を持っていない場合は、そもそも戦争が成り立たないんです。スポーツで例えるなら、相手チームがラケットとかバットとかそういう道具を持っていない場合は、そもそも試合ってできないですよね。だから相手が無人兵器を持っていない以上、ツヨネッコ軍も苦肉の策として有人戦闘を選択したんだと思います」


「なるほど。しかし、人間同士が水鉄砲で戦争というのはあまりに時代遅れというか、他に選択肢はなかったんでしょうか?」


「そうですね。ツヨネッコ軍の上層部でどういう話し合いが行われたかは知るよしもありませんが、有人戦闘自体がそもそも異例なわけですから、水鉄砲も熟慮した上で決定したものだと思います。戦争といっても自国の国内法を守る必要がありますし、今回のように敵国の領土が戦場になる場合は、条約だけでなく敵国の国内法も守る必要があります。当然、敵国に兵器を持ち込むことになりますから敵国への入国の際に審査を受けて、適法なものだけが許可されることになります。今回も事前の打ち合わせで水鉄砲ならいいよってことになったんでしょうね」


「なるほど。映像ではそこまで配慮してもまだ足りなかったと司令官が言っていましたが、実際のところはどうなんでしょうか?」


「現地のニュースやSNSをリアルタイムでチェックしていると、これはどうやら本当らしいです。敵味方双方から配慮が足りないという批判的な意見や非難の声が目立ちます」


「ほう、たとえば?」


「戦争に使われる水鉄砲メーカーの気持ちを考えろとか、出自が外国にある方々で編制された部隊との意志疎通が不安とか、使われる水の温度や安全性の管理体制が不十分なんじゃないかとか、薄い生地が濡れると下着が透けるんじゃないかとかですね」


「たしかに、そのあたりの不安に対する配慮は忘れがちですね」


「はい。さらに私が得た情報では、絶滅危惧種のメズラシドリによく似たメズラシドリモドキの卵の殻を描いたと思われる子どものイラストがSNSに投稿されたという噂が流れたんです。それで、戦場にメズラシドリモドキの巣があったんじゃないか、人間だけでなくそれ以外の環境に対する配慮が欠けていたんじゃないかという批判もあって、実は撤退が決まる三日前から侵攻のための工事は止まっていたようです」


「そうなんですか。それはいけない。地球は人間のものだけではないですからね」


「はい。そして決定的になったのは、三日前にツヨネッコの本国で起こった事故と言われています」


「どんな事故ですか?」


「公園で走って遊んでいた子どもが、年寄りにぶつかって――」


「あ、ちょっと、郡司さん!」


「あ、すみません」


「えー、番組の途中ですが、ただいま『ご高齢の方』と表現すべきところ、大変不適切な発言がありましたことを、番組を代表してお詫び申し上げます。不快に思われたご高齢の方々には、大変申し訳ございませんでした」


「大変申し訳ございませんでした」


「今後、このようなことがないように細心の注意を払って参ります。改めて申し訳ございませんでした。では続きをお願いします」


「それで、公園で走っていた子どもがご高齢の方とぶつかって、転倒させて骨折させてしまったそうなんです。そうなると寝たきりになって認知機能の低下につながりますから、これは大変だということになったんです。だから、子どもとご高齢の方々が同じ戦場で戦闘するのはいかがなものかという意見が強くなって、ご高齢の方々が戦場にいらっしゃる場合には、子どもは戦場に行かせないという諒解が形成されて、子育て世代が子どもを遊ばせる場所がなくなることを危惧して、それに反発して国内が不安定になって、とても戦争をしていられないというような状況らしいです」


「はあ、なるほど。戦場でのルール作りの議論も足りていなかったわけですか」


「はい。戦時下なので素早い意志決定が重要というのは分かりますが、あまりに拙速な印象はぬぐえません」


「そうですね。しかし、そこまで急いで戦争をする必要ってあったんですかね。そもそも論になってしまうのですが、この戦争はなんのために始まったんでしょうか?」


「現代では戦争の動機は、国内政治の不満を緩和するためというのがほとんどです。今回もツヨネッコの経済低迷からくる自信喪失、年金受給年齢の引き上げと受給額の引き下げ、医療保険税の値上げと病院窓口支払いの増額といった社会保障費の負担増加によって国民全体の不満が高くなっていたところに、ガリニャンコに侵攻して未採掘資源の掘削権を得て利益を上げることで、それらを一気に解決しようとしたけれども、うまくいかなったわけです」


「そうすると、今まであった不満が解消されないままに、戦争に勝てなかったという不満が加わるわけですか」


「はい。現政権の支持率は急降下していますので、まもなく崩壊するでしょうね」


「ははぁ、なるほど。大変よく分かりました。郡司さんありがとうございました」


「ありがとうございました」

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