戦争パレード
ポンコツ二世
爬虫類共和国軍、戦争パレード
共和国が独立した記念に建てられた宮殿には三人の支配者が立っていた。左端の一匹は陸軍元帥のコモドオオトカゲ、右端にいるのが宣伝大臣のコブラ、そして真ん中にいるのが爬虫類共和国の最高指導者であり、民衆からは「Tレックス」として親しまれているアリゲーター。三匹はまるで自ら作った世界のように下に集まる整列した爬虫類共和国軍を見下ろした。今はアナコンダの部隊が宮殿に立っている三匹を神としてあがめるように一糸乱れぬ隊列を組んで行進していた。
今日は特別な日だった。哺乳類帝国軍を首都一歩のところで押し破り、そのまま、サバンナを占領したのだ。後、一年もすれば戦争も終わる。この三年にわたる戦争もついに終わりが来るのだ。これで、やっと、爬虫類こそが最も進化した生命体であり、地球は爬虫類により発展したことが証明される。民衆はうろこでその喜びを蓄えながら、それぞれの種が発する歓声でその喜びを放った。それと共鳴するようにけたたましく軍歌が鳴る。
しかし、ナイルワニであるウィンターはこの喜びを享受することはできなかった。本当は、この勝利は皆と一緒に歓声を上げることが暗黙の了解とされている。だが、彼にはどうしても喜べなかった。爬虫類から哺乳類が進化し、哺乳類の脳がもっとも発達していると分かっているからだ。これはまさしく禁断の知識だった。
彼もこの戦争では従軍した。陸軍として。カリブ諸島奪還作戦にジャガー師団とたたかったが、爬虫類共和国軍は敗れ去った。見事なまでの完敗だった。ジャガー部隊は通信機械の扱いに慣れていたし、誘導作戦すらも緻密に作られていた。それに対し、爬虫類共和国軍は突撃、突撃、突撃だった。そこで、ウィンターは右足を負傷したのだ。
彼は戦えないと判断され本国に帰って療養することとなったが、上官からこういわれた。「いいか、あの戦いについて聞かれたら勝利したと答えろ。真実を話せば、お前は軍裁判にかけられ、反逆罪だ。」療養してから一日後、新聞にはこう書かれていた。
カリブ諸島奪還作戦はわが誇り高き軍の多大なる犠牲を払いながらもジャガー部隊を打ち破り、見事にカリブ諸島を奪還した。これは偉大なる勝利であり、爬虫類の戦略が哺乳類の戦略を上回っていたといって過言はないだろう。
その下には大きく、死んだジャガーの死体に群がって記念写真を撮る爬虫類部隊の姿があった。
世界の真実というのは驚くほどにもろいものなのだ。
ウィンターは従軍した負傷兵だったために政府から特等席が用意されていた。おかげで、行進パレードがよく見える。今はアナコンダ部隊の行進が終わり、イグアナ海兵隊の隊列がそれに続いた。政府や軍が言うには彼らイグアナは英雄らしい。彼らの得意とする海からの上陸により無敵と恐れられたライオン戦車部隊を包囲殲滅。哺乳類帝国軍の名将・ローベに降伏文書に署名させることに成功したからである。
宣伝大臣のコブラは声高らかにシャーシャ―音交じりにこう言った。「もし、あの時の戦争で最も活躍した部隊をどこかといかれたのなら私は迷わずこう答えるであろう。イグアナ部隊であると‼」民衆の声はさらに大きくなる。そして、コブラ宣伝大臣はこう続けた。「そして、この部隊にこそ我々は初代指導者様の骨を担ぐのにふさわしいと我々は判断した。」
これはパレード恒例の催しである。毎年、どの部隊一つが爬虫類共和国独立を勝ち取り、初代指導者となったガラパゴスゾウガメであるどーなの骨を担ぐこととなっていた。これは政府がどの部隊にするか決め、今回はイグアナ海兵隊となったわけ民衆の完成はさらに大きくなる。中にはない叫ぶ者もいた。間違いない。このパレードの一番の盛り上がりだ。
奥のほうから巨大な物体がやってくるのが見える。しかし、ウィンターはその骨を見た瞬間、茫然となった。頭の中の情報がストップする。それはカメの白い骨ではなく、茶色となった二足歩行で、頭部に巨大な歯が並んでいる骨だったからだ。いや、骨ではない。化石だ。恐竜の化石だ‼大きさは12メートルある。
しかし、民衆はそんなことお構いなしに歓声を上げている。特等席のものですらたと上がり拍手と歓声を上げている。黙っているのはかれ一匹だ。まるで誰も初代指導者がガラパゴスゾウガメではなく、最初から恐竜だったというように…。
こんなのは誤りだ‼初代指導者はカメだった‼なのに、今目の前にいるのは恐竜だ‼何千万年前に絶滅した恐竜だ‼俺は見たんだ。親とテレビで。カメである初代指導者が独立宣言を読み上げる姿を‼
だが、そのような確信した大陸にはやがて不安の波が襲ってきた。あれには証拠がない。ただの記憶だけだ。もしかしたら、そのカメは別の職務なのかもしれない。初代指導者様はその時は別の場所にいたのかもしれない。例えば、外国との条約締結とかに…。
コブラ宣伝大臣はこう演説した。「初代指導者様は力強き英雄であり、最後の恐竜の生き残りであった。その気力と迫力がこの国を、誇り高き爬虫類共和国を築き上げたのだ‼」
民衆は歓声を上げる。さらにさらに声は大きくなる。その叫びは天地を揺るがすほどの勢いだ。そして、この演説は彼の中の真実に新しい真実を植え付けた。
彼は立ち上げり、民衆とともに歓声を上げ、一部となった。
いいぞ‼いいぞ‼イグアナ海兵隊万歳‼万歳‼初代指導者様万歳‼恐竜最後の生き残りである初代指導者様万歳‼俺は誇りだ。カリブ諸島奪還に勝利できたことに‼
ウィンターはちらと今の最高指導者・Tレックスを見つめた。
彼は最高指導者が神のように見えた。
戦争パレード ポンコツ二世 @Salinger0910
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