第16話 彼と私の恋電車 運命のヒト②

彼はそう言い残すと、席に戻って行った。


第一印象とは違う言動。最初の紳士な雰囲気とは違うのは、自分をさらけ出したから。

私に本性を隠したりしない。

ありのままの自分でいれているんだって…あとから知ることになる。


席に戻るときに、彼らの様子を伺う。ずっと課長が話し続けて、彼は相槌してるだけ。時々、苦笑いを溢している。多分、課長のオヤジギャグが炸裂してるんだろうな。会社でもそうだから。


「陽菜?」

「ん?」

「このあと、どうする?」


既にお開きモード。美樹と大翔くんはこのまま帰るだろうし…村上さんと2人で飲みに行くのもな。


「僕は、ちょっと寄る場所があるんで」

「何処に行くんだよ?」

「同級生に呼び出されてるんだよ。何時でも良いから来いって」

「じゃあ、解散しましょうか」


帰るつもりで、席を立つと…トイレに立っていた課長に捕まった。


「あれ?瀬口さん解散?」


まさか捕まるとは。


「帰るなら、少し一緒にどう?」

「いや…お邪魔になりますから」

「えー、飲もうよ」


かなり出来上がっていて、思わずタメ息。


「先に帰ってて良いよ。少しだけ相手してから帰るから」

「わかった」

「気を付けてね」


仮にも上司だ、蔑ろには出来ない。一杯だけ付き合って帰ろう。


課長のいた席に行くと、彼がスマホを触っていた。時間を確認していたらしい。

そうだよね、普通に明日も仕事なんだから、私だって長居をする気はない。


「叔父さん、そろそろ帰ろう」

「えー、せっかく瀬口さん誘ったのに?」

「明日も仕事なんだから、会えるだろ」

「うーっ」


課長って酔っ払うと駄々っ子なんだ。ちょっとした発見。


「瀬口さん、次こそは一緒に!」

「そうですね」


とりあえず、この場は回避出来た事になるのかな?課長達も帰り仕度を始めた。このまま、帰っちゃうかな。


「では、私はこれで…」


去ろうと一歩下がると、彼がチラリと見てきた。逃げ出すなと目が訴える。

逃げ出したいよ。何で、そんなに強気なのさ。間違えたら犯罪でしょ。



課長をタクシーに乗せると、彼と2人きりになる。


「行かないから」

「じゃあ、ラブホ?」

「行かないし」


ダメだってば。絶対に今回はダメなんだから。


「この前のは、気の迷いですから!私は…結婚相手を探したいの。だから寄り道は出来ないんです!」


そう良い放ち、駅に向かう。

寄り道は出来ない。余計なハンデは必要ない。セフレとか必要ないんだから!


「村上と付き合って、結婚するんだ?」

「……」

「アイツで良いの?」

「真崎さんには関係ない!」


村上さんと付き合う事はない。大翔くんには悪いけど。

だから結婚もない。多分、村上さんから連絡が来ない限り、連絡もしないと思う。


「真崎さん…私はセフレとかいらないんです。だからもう、そういうの期待しないで」

「セフレね…。友達でもないけどね」


最低だ…この人。性格悪いでしょ?本当は…。


「それなら、どこから始める?」

「え?」

「ただの通りすがりでエッチしただけの相手から、今は会社繋がりの知り合いに進歩したけど。その次は?何なら交流を持ってくれる?友達?」

「友達って…真崎さんとは…ピンとこない」

「俺も」


ピンとこない。

体の関係を持った人と友達関係って。それに友達を求めてもいないし。

だからと言って、恋人でもないでしょ。お互いの事を知らなさすぎるんだから。

それに…真崎さんは恋人を求めていないって、さっき大翔くん達が話してたし。


「とりあえず…家に来ないか?」

「…家に行くと…エッチな事するんでしょ?」

「約束する。今日は…しないって」

「どうして、そこまでして誘うの?」

「陽菜と話がしたいから」


優しい表情。そんな風にも出来るんだね。

私は渋々、頷いた。話ぐらいなら…私もしてみたいと思ったし。


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