第15話 彼と私の恋電車 運命のヒト①

なるべく目を合わさないように視線はテーブルに戻す。人見知りの様に自然と。


「そうだ、瀬口さん。キミって恋人とかいたりしたかな?」

「え?いえ…」


いきなり言われた内容に驚き、思わず顔を上げる。

いないから、今、ここにいます。村上さんを紹介してもらう為に。とは、言いにくい。


「だったら、甥と結婚を前提に交際しないか?」

「へ?」

「叔父さん!」


突然の申し出に、課長以外が衝撃を受ける。彼も驚きを隠せてない。


「コイツ、誰もが認める良い男なのに、仕事人間だからさ。ここ何年かまともに恋人がいないんだよ。いい加減、年齢を考えて動いて欲しくてさ」

「そんな世話、いらないよ」

「いや、でも、瀬口さんはウチの課でも上位に入るほどの良い女だと思うんだよ。是非ともキッカケを与えたいだろ。可愛い甥っ子の為にも」

「いらん世話だよ」


可愛い甥っ子だって…何か笑える。が、そんな場合じゃない。


「陽菜、凄いって。リーダーと付き合う事が出来たら、皆に羨ましがられるよ?」

「いやいや、嫉妬でしょ?やだよ…妬みの対象だなんて」


本人達がいるけど、ここは譲れない。このままじゃ、断れない状況になってしまう。


「それに、今日は村上さんを紹介してもらう事になってたんだし」


言いにくいなんて、言っていられない。万事休すなんだから!


「え?僕ですか?」

「実はそうなんです、ごめんなさい。あの、村上さん…私と付き合って下さいませんか?」


本当は乗り気しなかったけど、悪い人ではなさそうだし。安定を求めるなら、村上さんだと思う。


「いや、でも…」


戸惑い、周囲を確認する。多分、立場を考えてるよね。


「なるほど!申し訳なかったな、そうか、そういう場だったのか。邪魔しちゃったね!悪い悪い!」


空気を読んでくれたらしき課長は彼と、この場を離れ奥の席に進んだ。


「陽菜?」

「ごめんなさい」


緊張した。課長相手に、こんな態度。

だけど…誰も私達の事を知らないから。


私は、彼を好きになるのが怖いんだ。この前の一件で、既に虜になりつつあった。

どっぷりと、彼にハマってしまいそうで、そしたら私は何を求めてしまう?


仕事人間と言われる人に、愛を求めて、重い人間になってしまうでしょ?それだけはイヤなんだ。絶対にうまくいくハズない。


どれくらい飲んだだろう…1時間すると、それなりの酔いがきていた。

(ダメだな最近)


「ちょっと…お手洗い」

「大丈夫?」

「平気だよ」


まだ、足元は大丈夫。意識だって平気。体が火照ってるぐらいだから。



トイレで大きなタメ息。

正直、村上さんと付き合う気にはならない。多分だけど2人きりになったら、会話は弾まない。でも、とりあえずお友達からって話にはなった。

これからは、連絡を取り合う事になる。


恋愛遍歴を聞いても、過去に1人しか付き合った事がないらしく。あまりリードは期待出来ない。流されタイプの私が流される事がなさそうな感じ。

ちょっと物足りない。


トイレから出ると、私は反射的に固まってしまった。彼もトイレから出てきたから。


「あ…」


彼は私に気付き、ジッと見てきた。私を捕らえる視線、やめて欲しい。

私は逃げるようにその場を去ろうとした。


「あのさ…話あるんだけど」

「どなたかとお間違えでは?」


腕を掴まれ、引き寄せられる。


「叫びますよ!」

「どうぞ、叫んだら?」

「だれ…ッ」


叫ぼうとした瞬間に、まさか、まさかの…キスを与えられた。

深く情熱的なキス…あの時と同じ。


「陽菜」

「…名前を…呼ばないで…」


抱き締められた体を引き離す事ができない。思い出す温もりが、あの激しさを要求しそうになる。

やっぱり毒性を持っているんだ。

何度も触れる唇。熱を帯びて、更に深みを増す。


戻らなきゃいけないのに…もっと、こうしていたい。


「あの時と同じ表情かおだ」

「…ズルい…こんなの」

「相変わらず可愛いな。なぁ、家で待ってるから、このあと…おいで」

「行かない…行きたくない」


何のために、黙って帰ったと思ってるの?深みにハマりたくないからだよ。体から始まる恋なんて、長続きしない…きっと。


「それなら、ここでする?」

「な、何言ってるの?」

「欲しそうなして、求めてるクセに」


顔が真っ赤になるのがわかる。図星だから、何も言えない。


「待ってるから」




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