第14話 彼と私の恋電車 疑惑⑥

「マーケティングのリーダーは凄い人でさ、企画営業なんだよ。両方の責任者になってるんだよな」

「仕事に情熱を捧げてる感じだよね…あの人は」

「そっちの企画課長と親しいらしいけど」

「そうなの?」

「だから、今回に限り旅行会社も請け負ってるんだよ。今までならやってないし」


(そうなんだ。課長と仲良しの人か…)

ウチの課長は40代だから、それくらいの人かな?


「すぐに昇進するんじゃないかな。クリエイターでもいける人だし…何でも出来ちゃうんだよな」

「凄いんだね。スーパーマンみたい。2人とも憧れてるの??」


だって2人そろって目が輝いて見えるんですが。


「憧れるし、嫉妬するよな」

「確かに」

「男でも女でも、惚れるな」

「ウチの会社には重要な存在だよ」

「ふーん。素敵なオジサマ?カッコいい?」



美樹が興味津々で聞く。そう言われるとカッコいい紳士を想像するよね?女子としては。


「は?オジサマじゃないし」

「え?女?」

「そうじゃなくて、そんなに年齢に差がないんですよ。僕たちと」


つまり…まだ20代?それは凄いな…20代で昇進だなんて。


「しかもイケメンで独身。仕事人間だから彼女とかもいないって噂なんだよな」

「一生独身ってやつかしら?」

「いやぁ…女性が放っておかないんじゃないですかね」


どんな人なんだろう。そこまで賞賛される人って。きっと見た目だけじゃないんだろうな。

でも、私には関係のない人だし。正直興味もない。


「ただコレも噂だけど、リーダーには忘れられない人がいるとか。昔の恋を引き摺ってるって話だけど」

「へぇ…意外だな」


気が付けば男だけで会話が弾んでいる。女子2人、置いてけぼり。本来の目的、忘れてるよね…大翔くん。


「………」


ボンヤリと他のテーブルを見てしまう。だって話に入っていけないから。

知らない人の話をされても…。美樹は普段から聞いてるみたいだけど。

いつまで続く会話なんだろうな。


居酒屋の出入り口に目がいく。ちょうど開いたから。

すると知っている人が入って来た。思わず目を背けてしまう。


だって…。

さっき話に出た、ウチの課長だったんだもの。

(お願いだから、こちらには気付かないで)

逃げるように帰って来たから、さすがに気まずいよね…。


だけど…入口付近に座ってて気付かれないわけないよね…。視線をそらすぐらいじゃ、バレバレだよな。


「あれ?瀬口さん」


知らないふりするわけには、いかないし。名前、呼ばれてるし…。


「あ、課長じゃないですか。お疲れ様です」


ニコやかな笑顔で対応する。早く去って下さい。


「お?普段とイメージ違うね。一瞬わからなかったよ。何だ、今日はデートだったから早かったのか」


もう、それ以上言ったらセクハラですからね。とりあえず笑って誤魔化す。


「課長は…ご自宅、コチラでしたか?」

「いや、今日は甥と飲もうかと思ってね」


甥…ですか。

私は課長の背後にいる人を見た。


「!」


その人と目が合い、思わず固まる。

だって…。


「姉の息子で、真崎まさき優也ゆうやだ。優也、彼女はウチの企画にいる瀬口 陽菜さん」


「あれ?リーダーじゃないですか!」


大翔くんが彼を見て驚く。

(嘘でしょ?)

だって渦中の人が…彼だなんて。

(ヤバい…)

この場を立ち去りたい。


「小谷…と、村上?」

「「お疲れ様です」」


本当に嘘だと言って。再会なんて望んでないんだから。

落ち着かない。

(私を見ないで)


「お疲れ様」


優しい声。既に懐かしく、恋しい。


「リーダー、紹介したいんですけど。俺の婚約者の美樹です。多分、年内に結婚する予定です」


大翔くんが美樹を紹介する。

大翔くんの笑顔を見てると、彼を慕ってるのがわかる。


(でも…あぁ…どうしよう)










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