第10話 彼と私の恋電車 疑惑②

その日の夜、美樹が家に遊びに来た。何かプリプリと怒りながら。


美樹は彼氏と同棲している。その彼が1ヶ月近い海外出張から帰って来たのにここにいるのは?


「何でケンカしたの?」


彼とは大学時代からの付き合いでもう5年になる。結婚をお互いに意識しているらしく、お互いに両親と面識もある。


「ケンカなんか、してないよ」

「じゃあ、何でそんなに怒ってるの?」

「………だって…」


美樹は膝を抱えて膨れた。


大翔ヒロトのやつ…中に出してきたんだもん」

「へ?」

「だから…エッチの時に避妊しなかったの!」

「…そう…なんだ…」


思わず固まりそうになってしまった。

同じ頃に、同じような事を親友が行っていたんだと思うと苦笑いでしょ。


「結婚するんだから、良いだろって…」

「え?」

「……何か…サラリとプロポーズされたんだよね…。一瞬、流しそうになっちゃったんだけど…」


照れくさそうに報告してくる美樹。

私は泣きそうになった。だって、やっぱり嬉しいじゃない?


「み~き~っ!おめでとう!」

「まだ早いよ…何も決まってないんだから…」

「何、言ってるの!もっと喜びなよー」


大翔くん、頑張ってたから…社会人になって、落ち着いたら結婚したいって。凄くバリバリに仕事、頑張ってた。

私の勤める会社の取引先が大翔くんが勤める会社で、たまに顔も合わせてたし、頑張りも知ってる。


大翔くんは広告代理店の営業に勤め、私は旅行会社の企画部に勤める。だからよく、営業に来てる大翔くんを見かけてた。


今回の出張もうちとの共同企画らしく、その打ち合わせと同時に現地で他の仕事の営業もしていたらしい。

(だから1ヶ月近くいなかったんだ)


「そっか…結婚かぁ」

「でも、プロポーズしたからって…中は無いでしょ?もし妊娠しちゃったら、デキ婚になっちゃうし…それに、ドレスが限られちゃうよ!」

「なるほど」


何だか耳が痛いな。チクチク心が痛む。

私なんて…アフターピルで無かったことにしてるのに。

結婚する相手でもない男と、そういうことをしちゃってるのに…罪悪感半端ない。


「プチ家出ではなくて、報告に来たんだね?」

「まぁ、うん。それに昨日は先に帰ってしまったから…申し訳なくて」

「気にしなくて良いよー」


「でも、美樹が結婚したら…独身なの私だけだね…」


仲良しグループで私だけ。焦りも感じるし…寂しくも感じる。


「陽菜の場合、先に相手見つけなきゃね」

「そこから…なんだよね…」

「どれくらい、ご無沙汰?」

「え?」


ドキッとした。

この場合のご無沙汰って?えっと…


「彼氏…らしき、人がいない歴」


らしき…って、思わず苦笑い。

最後に恋人だと思ってた人と別れてから…だったら。


「1年ぐらい?」

「1年近くしてないんだ?」

「な、にを?」


含みを持たせた話し方、やめて欲しいな…。立場ないから、落ち着かないよ。


「恋愛を…だよ。っていうか、陽菜の反応からすると…恋人いなくても、エッチはしてるみたいだけど?」


(ギクッ!バレてますね…ははは)





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