第6話 彼と私の恋電車 始まりの夜⑥

駐車場に行くと彼は車の鍵を取り出す。


センサーに反応した車は、無難な乗用車。少しホッとしてしまう。

カッコいい系な車だったら、やっぱり警戒してしまう。そういうのに慣れてそうで。


「どうぞ」


運転席に乗り込むと、彼は中から助手席の扉を開けた。私はオズオズと乗り込む。


「お邪魔します…」


いつの間にか酔いも冷めていた。こうも緊張してたら、冷めるよね。

吐いたからスッキリもしちゃってるし。


「ココからナビ出来る?」

「多分」

「どこら辺?」

「えっと…櫻野公園の近所です」

「OK」


エンジンをかけると、エアコンと音楽がかかる。

やばいよね…。

男の人の運転って…何かこう…カッコいいっていうか…ドキッとしてしまう。


彼のマンションから私のアパートまで車で約20分ぐらいの距離。


ドキドキして気付くのが遅かったんだけど、

流れていた音楽に懐かしさを感じた。

ずっと流れていたのは洋楽。聞き覚えのあるメロディ。


頭をフル回転して記憶を辿る。絶対的な証明になる証拠が欲しい。彼と同一人物なんだって。


チラリと横目で彼を盗み見る。

10年前とは顔付きも変わるよね…男の人は特に。それに、私…王子の顔をマジマジと見たことないし。


「何?」

「え?」

「何か言いたいことでもある?」


言いたいこと?質問したいことなら…。


「真崎さんって…何歳ですか?」

「28にもうすぐなる」

「もうすぐ?」

「来月が誕生日」

「それは…おめでとうございます」

「まだだし」


何となくどう返したらわからなくて、出た言葉。自分でも微妙だと思った。

それを彼は苦笑いで返してきた。まぁ、仕方のない反応だよね。


ただ、わかったのは…年齢が近い。


あと残る、私の情報はホクロ。耳朶…確か右だったから今は確認出来ないな…。


それなら…。


「地元の方ですか?」

「うーん…まぁ、隣の市かな…実家は。職場が近いからこっちに一人暮ししてる」

「あ、私もです」


通おうと思えば通える距離だけど、何せトラウマだから…あの痴漢は。

仲良しの友達達も、コッチ寄りに住んでるし。


「どこの高校でした?」

「S高」


S高…って…。


「私…Y高です」

「へぇ、同じ駅だ。偶然だね、地元も一緒か?もしかして」

「あ、あの…」


もしかして本当に本人かな?確認して、覚えてるかな?


「もしかして…電車で痴漢にあってた…Y高の女子を…助けた事は…ないですか?」


緊張する。どう反応が返ってくるんだろう。

もし本人なら…。


「………」


(違う?)


「ごめんなさい、変なこと聞いて…」


早まったかな。人違いだったみたい?

そんな運命の様な出来事あるわけないよね。


「公園…着いたよ」

「あ、ありがとうございます。ここからは近いので…」


櫻野公園の隣まで来ると、彼は車を停めた。そして私をジッと見つめてくる。

私を真っ直ぐに見てきたから、思わず耳朶を確認してしまう。でも…暗くてよくわからないや。


「降りないの?」

「え?」












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