第5話 彼と私の恋電車 始まりの夜⑤

彼が私の手を取る。握られた手が温かい。

逃げない様に?それとも支えてくれてる?

妙にドキドキしてしまう。


だって…見た感じ、容姿は悪くないんだもん。

身長差も…あぁ…なるほど…彼を思い出すんだ。

あの時の王子様に雰囲気が似ているんだ。

殆どない王子様の情報だから、自信はない。

10年も前の事だから本当に雰囲気が似ているのかも曖昧。


それでも似てると思ってしまう。



連れられてきたマンション5階の角部屋。


「入って」


そう言うと、彼はスタスタと部屋に入って行った。でも、さすがに躊躇う。

見ず知らずの人の家に入るほど、警戒心がないわけじゃない。

私は玄関で立ち尽くす。


玄関から見える部屋の雰囲気はシンプルで片付いている。なんと言うかキレイ。まだ古くないんだろうな。


落ち着かない…。変な緊張感。


「何してんの?上がれば?」

「え?いや…さすがに…それは…」


スーツを脱いで私服になっていた彼はシンプルにTシャツ、ジーパン。そしてメガネをしていた。また雰囲気が変わる。


「はい、これ」

「?」

「ずっとそのまま、嫌だろ?」


手渡されたのはTシャツだった。確かに汚れてしまってるのは上だけだから…。


「でも…」

「そこが風呂場だから」

「…」


そう言って再び部屋の方に戻っていく。有無を言わせないってやつですかね?


葛藤しながらも汚れが気になる方が勝り、上がってバスルームに入る。もちろんキチンと鍵をかけて。


着ていたトップスを脱いで、借りたTシャツに着替える。少し大きいけど…洗濯後の良い匂い…。


バスルームもやっぱりシンプルで片付いている。

とりあえず、さっと汚れてしまった部分を洗う。


早く帰らなきゃ、さすがにいつまでもいられない。

(警戒しないと。知らない人なんだし)


バスルームから出ると、彼が立っていた。

ドキッとしてしまった。いや…だって…カッコいいんだもん。


「終わった?車出すけど」

「あ、はい」


袋を手渡されたから、それに服をしまう。

そして思い出した。


「あの…スーツは?」

「あぁ、明日クリーニングに出すよ。下にクリーニング店あるから」

「お金…」


私はカバンから財布を取り出そうとした。だけど、それを止められる。


「良いから。どうせ、クリーニングに出す予定だったし」

「でも…」

「ほら、さっさと行くよ」


そう言って、玄関で靴を履く。なんか…強引な人。

言われるがままに、着いて行く。玄関を出る時に私は表札を確認した。

だって名前を知らないのも…怖いし。


【真崎】


「…まさき…」


(マサキ…え?いや…違うよね…)

っていうか…私、王子様の名前も知らないし。

姓なのか名前なのか。


「どうかした?」

「いえ…何も」


どうしよう。もしかしてって思うと…そう思えてしまう。彼があの時の王子様なんじゃないかって。


だけどそんな偶然なんてないよね。少女漫画じゃあるまいし。




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