第4話 彼と私の恋電車 始まりの夜④

「げ…」

「うわぁ…」


男共が眉をしかめる。


(アンタ達のせいじゃない!もっと早く、開放してくれていたら…トイレに間に合ったのに!)


凄く泣きたい気分だ。


「ごめんなさい…」


通りすがりの人を巻き込んでしまった罪悪感。周囲の目が痛い。

私はカバンからハンカチを取出し、汚してしまったスーツを拭く。

(洗わないと…ダメだな)


「あの…」


気が付けば絡んで来ていた男共はその場を去っていた。私を持ち帰るのは無理だと察したんだろう。

それは良かったんだけど…コッチの方が大事だ。


「……」


チラリと様子を窺って見ると、彼は私の事をジッと見てきた。

(どうしよう…。怒ってるよね?)


とりあえずこの場を去りたい。本当に周囲の目が痛い、怖い…。


「場所…変えるか」


彼は察してくれたのか歩き出した。私はそれに従い歩く。だけど…フラフラは変わらない。


「フラフラになるまで飲んだのかよ」

「…すみません」


呆れる彼。当たり前だよね。


「家、近いの?」

「…近くないです…」


電車で2駅、歩いて約40分。近いとは言えないよね?遠いともいえないけど。


「はぁ…」

「…すみません」


何か…謝るしかない。

家の距離とか、彼には関係のない事だけど。とりあえず迷惑はかけてしまったのだし…。



「来て。歩ける?すぐソコだから」

「…?」



彼が指差したのは、少し先にある賃貸マンションだった。駅に近いからそれなりのお値段がすると聞いたことがある。


「それで帰るの?」


彼が次に指を差したのは私の服。

彼のスーツを汚してしまった事に意識がいっていたけど…自分もかなり汚れていた。

(この姿で…電車か…さすがに無いな…)


タクシーか…歩きか…。

(歩くのは無理だな…ただでさえフラフラしてるのに。タクシーか…)


「あの…とりあえず…クリーニング代をお支払いするので…」

「送ってやるよ」

「え?」


何で?そんな義理はないのに?

私はハッとし、そして身構える。


「いえ…タクシーで帰れますから」

「…タクシー乗り場、混んでたよ?人身事故で電車停まってるみたいだし」

「え?」


何?そのタイミング。ありえないでしょ。


「とりあえず、着替えたいんだよね」

「…すみません」


もう、何も言えない。罪悪感しかないから。


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