番外編 5:揺れる心、燃える魂

# 刃に宿る想い - 番外編 6:揺れる心、燃える魂


冬の厳しい寒さが鷹乃道場を包み込む頃、一人の男が訪れた。その名は霧島涼。かつての名門道場の跡取りであり、その容姿は美しく、剣の腕前も確かなものだった。


「はじめまして、鷹乃十四郎様。私は霧島涼と申します。しばらくの間、ご指導いただきたく参りました」


涼の優雅な立ち振る舞いに、道場の面々は目を奪われた。特に十四郎は、何か言い様のない感情を抱いたようだった。


「ようこそ、霧島涼殿。我が道場へようこそ」


十四郎の声には、普段にない温かみが感じられた。それを聞いた椿丸は、微かな不安を覚えた。


日々の稽古の中で、涼の実力は明らかになっていった。その才能は驚くべきもので、時に十四郎さえも唸らせるほどだった。


ある日の稽古の後、涼は十四郎に近づいた。


「十四郎様、個人的にご指導いただけませんでしょうか」


十四郎は少し考えた後、頷いた。


「構わんよ。明日の夜、裏山の滝つぼで待っておれ」


その会話を聞いた椿丸は、胸に重いものを感じた。


翌日、椿丸は十四郎と涼の特別稽古を遠巻きに見守っていた。二人の動きは美しく調和し、まるで舞を見ているかのようだった。


稽古が終わると、涼が十四郎に水筒を差し出した。


「お疲れ様でした。どうぞ」


「ああ、ありがとう」


十四郎が水を飲み干す姿を見て、椿丸は何か違和感を覚えた。


その夜、十四郎は珍しく早く床についた。


「少し体調が優れんのでな。椿丸、今夜は一人で休んでくれ」


椿丸は不安を感じつつも、十四郎の言葉に従った。


真夜中、椿丸は不思議な物音で目を覚ました。十四郎の部屋から聞こえてくる声に、椿丸は耳を澄ませた。


「や...やめろ...涼...」


十四郎の声だった。しかし、いつもの力強さはなく、か細く震えているように聞こえた。


椿丸は咄嗟に十四郎の部屋へ向かった。襖を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


十四郎が布団の上で横たわり、その上に涼が覆い被さっていた。十四郎の着物は乱れ、肌が露わになっている。


「十四郎さん!涼、何をしている!」


椿丸の叫び声に、涼は振り返った。その目には、冷たい光が宿っていた。


「邪魔をするな、椿丸。十四郎様は私のものだ」


涼の声に、椿丸は怒りを覚えた。


「離れろ!十四郎さんから!」


椿丸が涼に飛びかかろうとした瞬間、十四郎の声が響いた。


「椿丸...気をつけろ...奴は...」


その言葉を最後に、十四郎は意識を失った。


「十四郎さん!」


椿丸は涼を押しのけ、十四郎の元へ駆け寄った。


「ふふふ...遅かったな、椿丸」


涼の笑い声に、椿丸は激しい怒りを感じた。


「何をした。十四郎さんに」


涼は優雅に立ち上がった。


「ただの眠り薬さ。まあ、少し強めではあるがな」


椿丸は十四郎を抱きかかえながら、涼を睨みつけた。


「なぜだ。なぜこんなことを」


涼の表情が一変した。そこには、深い悲しみと怒りが混ざっていた。


「なぜって?お前には分からんだろう。十四郎様のような方を、ただの弟子如きが独占しているなんて...」


椿丸は驚きの表情を浮かべた。


「お前...十四郎さんを」


「そうだ。私は十四郎様を愛している。お前なんかよりも、ずっと深く」


涼の言葉に、椿丸は言葉を失った。しかし、すぐに決意の表情を浮かべた。


「分かった。ならば、正々堂々と勝負しよう」


涼は冷笑を浮かべた。


「勝負だと?お前如きが私に勝てるとでも?」


椿丸は静かに立ち上がった。


「剣で勝負しよう。勝者が十四郎さんの傍にいる権利を得る」


涼はしばらく考え込んでいたが、やがて頷いた。


「面白い。受けて立とう」


二人は道場へと向かった。月明かりの下、二人の剣士が向かい合う。


「始めようか」


涼の言葉と共に、激しい戦いが始まった。


刃と刃がぶつかり合う音が、夜の静けさを破る。涼の剣さばきは流麗で、まるで舞を見ているかのようだった。一方の椿丸は、力強く、そして柔軟な動きで応戦する。


「なかなかやるじゃないか、椿丸」


涼の声に、椿丸は答えない。ただ、黙々と剣を振るう。


戦いは一進一退。しかし、次第に椿丸が優勢になっていく。


「なぜだ...なぜお前如きが...」


涼の動きが乱れ始めた。


その隙を突いて、椿丸の剣が涼の手から刀を弾き飛ばした。


「終わりだ、涼」


椿丸の剣が、涼の喉元に突きつけられる。


涼はゆっくりと膝をつき、頭を垂れた。


「負けた...まさか、お前に負けるとは...」


椿丸は剣を収めた。


「涼。十四郎さんへの想いは分かる。だが、それは強引に奪うものではない」


涼は顔を上げ、椿丸を見つめた。その目には、涙が光っていた。


「お前は...本当に十四郎様を愛しているのか?」


椿丸は静かに頷いた。


「ああ。命を懸けてな」


涼はしばらく黙っていたが、やがて立ち上がった。


「分かった。私の負けだ。立ち去るとしよう」


涼が去ろうとしたその時、十四郎の声が響いた。


「待て、涼」


振り返ると、そこには十四郎が立っていた。まだ体は揺らいでいたが、目は清明だった。


「十四郎様...」


涼の声が震える。


十四郎はゆっくりと涼に近づいた。


「お前の想いは、しっかりと受け取った。だが、俺の心は既に決まっている」


そう言って、十四郎は椿丸の手を取った。


「俺の全ては、この者にある」


涼は深々と頭を下げた。


「分かりました。私の負けです。お二人の幸せを...心よりお祈りしております」


そう言って、涼は去っていった。その背中には、悲しみと諦めが滲んでいた。


涼が去った後、十四郎は椿丸を強く抱きしめた。


「椿丸...すまなかった」


椿丸は十四郎の胸に顔をうずめた。


「いいえ...私こそ、もっと気づくべきでした」


十四郎は椿丸の顎を掴み、顔を上げさせた。


「もう二度と、お前から離れん」


そう言って、十四郎は椿丸の唇を奪った。


長く、深い口づけ。それは、互いへの愛を確かめ合うかのようだった。


唇を離すと、十四郎は椿丸を抱き上げた。


「十四郎さん?」


「今夜は、お前とずっと一緒にいたい」


そう言って、十四郎は椿丸を自室へと運んだ。


障子を閉め、灯りを落とした薄暗い部屋で、二人の体が重なり合う。


十四郎の唇が、椿丸の耳から首筋へと移っていく。その感触に、椿丸は小さな吐息を漏らした。


「あっ...十四郎さん...」


十四郎の手が椿丸の着物の襟元に伸び、少しずつ肌を露わにしていく。


「椿丸...お前は本当に美しい」


十四郎の言葉に、椿丸の頬が赤く染まる。


「十四郎さんこそ...」


椿丸の手が、十四郎の逞しい胸板を撫でる。その感触に、十四郎は身震いした。


二人の着物が、音を立てて床に落ちる。月明かりに照らされた二つの裸体が、互いを求めるように絡み合う。


十四郎の唇が椿丸の胸元を愛撫し、さらに下へと移っていく。その感触に、椿丸は思わず腰を浮かせた。


「はぁ...十四郎さん...」


十四郎の舌が椿丸の最も敏感な部分を舐め上げる。その感触に、椿丸は思わず声を上げた。


「あっ...そこ...」


十四郎は椿丸の反応を楽しむように、ゆっくりと舌を這わせ続ける。

椿丸の吐息が激しくなっていく。


「十四郎さん...もう...」


椿丸の言葉を遮るように、十四郎が椿丸の中に指を滑り込ませた。


「んっ!」


椿丸の声が漏れる。


十四郎の指が、椿丸の中をゆっくりと愛撫していく。その動きに合わせて、椿丸の腰が自然と動き出す。


「椿丸...いいのか?」


十四郎の声に、椿丸は頷いた。


「はい...お願いします...」


十四郎は椿丸の足を広げ、ゆっくりと自身を押し入れた。


「はぁっ!」


二人の声が重なる。


十四郎がゆっくりと腰を動かし始める。その動きに合わせて、椿丸の息遣いも激しくなっていく。


「十四郎さん...もっと...」


椿丸の言葉に応えるように、十四郎の動きが激しくなる。

二人の体が一つとなり、互いの存在だけを感じ合う。


汗が滴り、吐息が混ざり合う。

部屋中に、二人の愛の証が満ちていく。


「椿丸...もう...」


「私も...十四郎さん...!」


激しい律動の中、二人の体が限界に達する。

その瞬間、まるで全身に電流が走ったかのような快感が二人を襲った。


「はぁっ...はぁっ...」


二人の荒い息遣いが、夜の静けさを破る。


しばらくの間、二人は言葉もなく抱き合っていた。

やがて、十四郎が静かに口を開いた。


「椿丸...すまない。心配をかけて」


椿丸は十四郎の胸に顔をうずめた。


「いいえ。これで私たちの絆が、より強くなりました」


十四郎は椿丸を強く抱きしめた。


「ああ。もう二度と、お前から離れん」


二人は再び口づけを交わした。長く、深い口づけ。


その後も、二人は何度も愛を確かめ合った。夜が明ける頃には、互いの体に刻まれた痕が、その激しさを物語っていた。


朝日が差し込み始めた頃、十四郎は椿丸の髪を優しく撫でながら言った。


「椿丸、俺たちの仲を、もう隠す必要はないだろう」


椿丸は驚いて顔を上げた。


「十四郎さん、それは...」


「ああ。俺たちの絆を、皆に公表しよう」


椿丸の目に涙が浮かんだ。


「はい...ありがとうございます」


その日の朝稽古の前、十四郎は全ての弟子たちを集めた。


「皆、聞いてくれ。俺には大事な報告がある」


道場は静まり返った。


「俺と椿丸は...互いを深く愛している。そして、これからも共に歩んでいくつもりだ」


一瞬の沈黙の後、道場は歓声に包まれた。


「やっぱり!」

「おめでとうございます!」

「二人とも幸せになってください!」


弟子たちの祝福の言葉に、十四郎と椿丸は安堵の表情を浮かべた。


しかし、その幸せな瞬間も長くは続かなかった。


数日後、道場に一通の書状が届いた。それは、かつての妖刀使いの一派が、再び動き出したという知らせだった。


「十四郎さん、これは...」


椿丸の声に、十四郎は厳しい表情を浮かべた。


「ああ、また戦いの時が来たようだ」


二人は互いを見つめ、静かに頷き合った。


その夜、十四郎と椿丸は道場の裏手にある小さな池のほとりで、静かに語り合っていた。


「椿丸、明日からは危険な旅になるだろう」


「はい、覚悟はできています」


十四郎は椿丸の手を取った。


「俺たちの絆が、どんな妖刀の力も打ち砕くはずだ」


椿丸は十四郎の手を強く握り返した。


「ええ、必ず」


月明かりの下、二人は再び口づけを交わした。それは、これから始まる戦いへの決意の印のようだった。


翌日、十四郎と椿丸は旅立ちの準備を整えた。道場の弟子たちが、二人を見送る。


「先生、椿丸さん、どうかお気をつけて」


源太が深々と頭を下げる。


十四郎は静かに頷いた。


「ああ、必ず戻ってくる。それまでは道場を頼むぞ」


「はい!」


弟子たちの声が響く。


十四郎と椿丸は最後に道場を振り返り、そして歩き出した。


長い旅路の果てに、二人は妖刀使いの一派の隠れ家にたどり着いた。それは、深い山中にある古びた寺院だった。


「来たな、十四郎...椿丸...」


闇の中から、不気味な声が響く。


「妖刀使い...」


十四郎が低く呟いた。


「よくぞここまで来た。だが、ここがお前たちの墓場となるぞ」


妖刀使いの声と共に、黒い靄が辺りを包み込んでいく。


「椿丸、気をつけろ!」


十四郎の警告の直後、無数の刃が二人に向かって飛んでくる。


椿丸と十四郎は背中合わせで立ち、次々と襲いかかる刃を払いのける。


「十四郎さん、この刃は...」


「ああ、妖刀の力を宿している」


二人は息を合わせて戦い続ける。しかし、次第に疲労が蓄積していく。


「くっ...」


十四郎が膝をつく。


「十四郎さん!」


椿丸が十四郎をかばうように立つ。


その時、妖刀使いの姿が現れた。


「ふふふ...これで終いだ」


妖刀使いが刀を振り上げる。その瞬間、椿丸の体が光り始めた。


「な...なんだ?」


妖刀使いが驚きの声を上げる。


椿丸の体から放たれる光が、十四郎を包み込む。


「十四郎さん...私の力を...使ってください」


椿丸の声が、十四郎の心に直接響く。


十四郎は立ち上がり、椿丸と手を取り合った。


「ああ、共に戦おう」


二人の体が一つに溶け合うように輝き始める。


「こ、これは!」


妖刀使いが後ずさる。


光に包まれた十四郎と椿丸が、一つの存在のように融合していく。


「我々の絆が」


十四郎の声が響く。


「あなたの闇を打ち払います」


椿丸の声が重なる。


そして、二人は同時に手を前に突き出した。

まばゆい光の束が、妖刀使いを貫く。


「ぐあああああ!」


妖刀使いの悲鳴と共に、その姿が光の中に溶けていった。


光が収まると、十四郎と椿丸は再び別々の姿で地面に立っていた。


「終わったな...」十四郎がつぶやく。


「はい...」椿丸が答える。


二人は再び強く抱き合った。


「椿丸...ありがとう」


「いいえ、十四郎さん。私たち二人の力です」


二人は再び口づけを交わした。長く、深い口づけ。


それは、二人の永遠の契りの証であり、共に乗り越えた試練の記念でもあった。


数日後、十四郎と椿丸は道場に戻った。弟子たちは、歓喜の声を上げて二人を迎えた。


「先生!椿丸さん!無事でよかった!」


十四郎は静かに頷いた。


「ああ、ただいま」


椿丸も笑顔で答えた。


「みんな、ありがとう」


その夜、道場では祝宴が開かれた。酒が酌み交わされ、笑い声が響く中、十四郎は椿丸を庭に誘い出した。


満月の下、二人は向かい合って立っていた。


「椿丸」


「はい、十四郎さん」


十四郎はゆっくりと片膝をつき、懐から小さな箱を取り出した。


「俺と...一生を共にしてくれないか」


箱の中には、美しい指輪が入っていた。


椿丸の目に涙が溢れる。


「はい...はい!喜んで!」


椿丸は十四郎に飛びついた。二人は強く抱き合い、そして口づけを交わした。


月明かりの下、二人の影が一つに溶け合う。


これは、新たな物語の始まりに過ぎなかった。

しかし、二人の心に宿る想いは、既に永遠のものとなっていた。


「刃に宿る想い」

それは、十四郎と椿丸が歩んできた道の名前であり、これからも二人が共に歩んでいく道の名前でもあった。


*********************************

この作品が少しでも良いと思っていただけましたら、☆♡いいねやお気に入り登録など、どうぞよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る