第八章:迫り来る脅威
## 第八章:迫り来る脅威
夜明け前、鷹乃道場は異様な緊張感に包まれていた。十四郎と椿丸は、葉隠の新たな妖刀の脅威に対処するため、準備を整えていた。
「椿丸、準備はいいか」
十四郎の声に、椿丸は深く頷いた。
「はい、十四郎さん」
その言葉に、十四郎は微かに笑みを浮かべた。まだ、「さん」付けで呼ばれることに慣れていない様子だった。
二人が道場を出ようとした時、源太が駆け寄ってきた。
「先生、椿丸、本当に二人だけで大丈夫なのですか?」
十四郎は静かに答えた。
「ああ、心配するな。我々二人で十分だ」
その言葉に、源太は不安そうな表情を浮かべたが、それ以上は何も言わなかった。
朝霧の立ち込める中、十四郎と椿丸は町を出て、葉隠の居場所へと向かった。途中、人けのない山道で、二人は立ち止まった。
「椿丸」
十四郎が振り返る。椿丸は、その深い瞳に吸い込まれそうになった。
「何でしょうか、十四郎さん」
十四郎は椿丸の手を取り、強く握った。
「今回の戦いは、今までとは比べものにならないほど危険だ。お前に何かあれば、私は...」
言葉につまる十四郎を、椿丸は優しく抱きしめた。
「大丈夫です。私たち二人なら、どんな困難も乗り越えられます」
その言葉に、十四郎は深く頷いた。そして、椿丸の唇を優しく奪った。短いが、深い愛情の籠もったキスだった。
「行こう」
手を取り合ったまま、二人は再び歩き出した。
数時間後、二人は古びた神社に辿り着いた。そこには、不吉な空気が漂っていた。
「ここか...」
十四郎の呟きに、椿丸は静かに頷いた。
二人が神社の境内に足を踏み入れた瞬間、冷たい風が吹き抜けた。
「よく来たな、十四郎、そしてお前の可愛い弟子も」
その声に、二人は身構えた。木々の間から、葉隠が姿を現した。その手には、黒く禍々しい妖刀が握られていた。
「葉隠...」
十四郎の声には、怒りと悲しみが混ざっていた。
葉隠は薄く笑った。
「どうだ、この妖刀の力は。前のものとは比べものにならんぞ」
その言葉と共に、葉隠は妖刀を振るった。一瞬にして、周囲の木々が両断された。
「くっ...」
十四郎は椿丸をかばうように前に出た。
「葉隠、まだ遅くない。その刀を手放せ」
しかし、葉隠の目には狂気の色が宿っていた。
「遅いも何もない。この力こそが、私の求めていたものだ!」
葉隠の姿が一瞬にして消え、次の瞬間には十四郎の目の前に現れていた。
「死ね!」
妖刀が振り下ろされる。しかし、その刃を受け止めたのは、椿丸の刀だった。
「させません!」
椿丸の刀が、かすかに光を放つ。
「なに!?」
葉隠が驚いた隙を突いて、十四郎が斬りかかる。三者の刃がぶつかり合い、激しい戦いが始まった。
刃と刃がぶつかり合う音が、神社中に響き渡る。葉隠の妖刀の力は凄まじく、十四郎と椿丸は苦戦を強いられた。
「くっ...」
十四郎が膝をつく。その傍らには、既に倒れている椿丸の姿があった。
「ふふふ...これで終いだ」
葉隠が妖刀を振り上げる。その時だった。
「十四郎さん...」
椿丸が、かすかに目を開けた。その瞳に、強い想いが宿っている。
「椿丸...」
二人の手が重なる。その瞬間、不思議な光が二人を包み込んだ。
「な、なんだこれは!?」
葉隠が驚いて後ずさる。
光に包まれた十四郎と椿丸は、ゆっくりと立ち上がった。二人の刀が、まるで一つであるかのように輝いている。
「葉隠」
十四郎の声が響く。
「私たちの絆が、お前の妖刀を打ち砕く」
椿丸も声を重ねた。
「二人の想いは、どんな闇よりも強いのです」
そして、二人は同時に刀を振るった。
その一撃は、葉隠の妖刀を真っ二つに割った。
「バカな...」
葉隠がつぶやく。妖刀から黒い靄が抜け出し、空中で消えていく。
葉隠は力なく膝をつき、十四郎たちを見上げた。
「なぜだ...なぜお前たちにそんな力が...」
十四郎は静かに答えた。
「それは、純粋な想いの力だ」
椿丸も付け加えた。
「守るべき人がいる。それが私たちの力の源なのです」
葉隠の目から、涙がこぼれ落ちた。
「そうか...私には、そんな大切な人がいなかったのか...」
十四郎は葉隠に近づき、その肩に手を置いた。
「まだ遅くない。お前にも、きっと...」
しかし、その言葉を最後まで聞くことなく、葉隠は意識を失った。
戦いが終わり、静寂が戻った神社。十四郎と椿丸は、互いを抱きしめ合った。
「終わったな...」
「はい、十四郎さん」
二人の唇が重なる。長く、深い口づけ。それは、互いへの愛と信頼を確かめ合うかのようだった。
しかし、この戦いの終わりは、新たな始まりでもあった。二人の前には、まだ多くの試練が待ち受けているはずだ。
それでも、互いの手を強く握り合う二人の表情には、どんな困難も乗り越えられるという確信が宿っていた。
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