## 第四章:秘められた才能

## 第四章:秘められた才能


葉隠との決闘から数日が過ぎ、鷹乃道場は一見すると日常を取り戻したかに見えた。しかし、空気の中には微かな緊張が漂っていた。


早朝、まだ誰も起きていない時間に、椿丸は一人で稽古に励んでいた。月下の決闘での自身の無力さを痛感し、必死に鍛錬を重ねていたのだ。


「もっと…もっと強くならなければ」


汗で濡れた前髪をかき上げながら、椿丸は刀を振り続ける。その姿は、まるで舞うように美しかった。


「椿丸」


不意に聞こえた声に、椿丸は驚いて振り返った。そこには十四郎が立っていた。


「せ、先生!おはようございます」


「随分と早いな」


十四郎は静かに椿丸に近づいた。その仕草には、いつもの厳しさの中に僅かな優しさが混じっていた。


「見せてみろ。お前の型を」


「はい!」


椿丸は深呼吸をし、再び刀を構えた。そして、ゆっくりと動き始める。


最初は普通の動きだった。しかし、次第にその動きは流れるように滑らかになっていく。まるで水が流れるように、無駄のない美しい動きだった。


十四郎の目が見開かれた。


「止めろ」


椿丸が動きを止めると、十四郎が近づいてきた。


「お前、いつからその動きができるようになった」


椿丸は首を傾げる。


「え?いつも通りだと思うのですが…」


十四郎は腕を組んだ。


「いや、これは尋常ではない。お前には驚くべき才能がある」


その言葉に、椿丸は驚きと喜びが入り混じった表情を見せた。


「そんな…先生のおかげです」


十四郎はゆっくりと首を横に振った。


「いや、これはお前自身の才能だ。私は…ただそれを引き出しただけだ」


椿丸の頬が赤く染まる。十四郎の言葉に、胸が高鳴るのを感じた。


「先生…」


二人の視線が絡み合う。そこには言葉では表現できない何かが宿っていた。


しかし、その時。


「先生!大変です!」


駆け込んでくる弟子の声に、二人は我に返った。


「どうした」


「葉隠様が…葉隠様が逃げ出したそうです!」


十四郎の表情が一変する。


「何だと?」


「はい、昨夜のうちに…」


十四郎は歯を食いしばった。


「くっ…油断があった」


椿丸は不安そうに十四郎を見つめた。


「先生、どうすれば…」


十四郎は深く息を吐いた。


「椿丸、お前にも協力してもらう。葉隠を追うぞ」


「はい!」


その日から、二人の追跡が始まった。町中を駆け巡り、情報を集める。しかし、葉隠の姿を見たという確かな証言は得られなかった。


数日が過ぎ、疲れ果てた二人は道場に戻っていた。


「先生、このままでは…」


十四郎は遠くを見つめながら答えた。


「焦るな。必ず手がかりは現れる」


その言葉に、椿丸は僅かに安心を覚えた。


夜更け、椿丸は眠れずにいた。ふと、庭に人影を感じ、そっと障子を開けた。


そこには、月明かりに照らされた十四郎の姿があった。


「先生…」


十四郎は振り返り、椿丸に目を向けた。


「眠れんのか」


「はい…」


椿丸は恐る恐る十四郎の傍らに立った。


「先生は、葉隠のことをどう思われているのですか」


十四郎は静かに答えた。


「かつての同門だ。しかし、今は…敵だな」


「そうですか…」


「椿丸」


「はい」


「お前の力が必要だ。葉隠を止めるには、お前の才能が鍵になるかもしれん」


その言葉に、椿丸は身が引き締まる思いがした。


「はい!必ず、先生のお役に立ちます」


十四郎はゆっくりと椿丸の頬に手を伸ばした。


「頼りにしているぞ」


その温かな手の感触に、椿丸は胸が熱くなった。思わず、十四郎の手を握りしめていた。


「あ、すみません」


慌てて手を離そうとする椿丸だったが、十四郎はその手をしっかりと握り返した。


「大丈夫だ。お前がいてくれて、私は強くなれる」


月明かりの中、二人は言葉もなく見つめ合っていた。その時、椿丸の中で何かが確信に変わった。この人のためなら、どんな困難でも乗り越えられる。そう、心に誓ったのだった。


しかし、これは長い物語の一幕に過ぎなかった。葉隠の行方、妖刀の謎、そして二人の関係は、これからどう変化していくのか。誰にも分からない。


ただ、月明かりに照らされた二人の姿は、まるで一幅の絵のように美しかった。その美しさの中に、未来への希望と不安が交錯している。


刃に宿る想いは、静かに、しかし確実に育っていった。


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