ワケがわからない!

ぺるそな

第1話

前略

とてつもなく変なヤツが、とてつもなく変なことを呟いているところに出くわした。


俺は赤石 勇斗(あかし ゆうと)

最悪なタイミングで、この現場を訪れてしまった憐れな会社員だ。


「あは、せんぱぁい、聞いてましたぁ?」

首を傾げ、ヘラヘラと笑いかけてくるコイツが、その変なやつ。

変な後輩の箱田 奏(はこだ かなで)

普段からヘラヘラとしてはいるが、今回はすっっごくまずいと思う。とにかくまずいと思うんだ。


「何をだ?」

極力冷静に、かつ真顔で尋ねる。


(刺激したらまずいよなぁ…)

そう思ったことも表には出さないように、表情も態度も一定に。


「いやいやぁ、絶対聞いてましたよね?

ほら、先輩って人の言葉聞き漏らしませんしぃ」


ヘラヘラ笑い、手をあおいで言ってくる。

なんだコイツ、人のこと理解していやがる。

やめてくれ。


ちなみにコイツがさっき言ったヤバいことって何かって?


「赤石先輩とヤりたいなぁ…」だよ。


どうすりゃいいんだ?聞いていたとしてどうすりゃいい?

俺がなんかできるワケねぇだろ。


俺には姉がいる。

赤石 優鳥(あかし ゆとり)という名の、美人な姉が。

俺はシスコンではない。断じて違う。

事実を述べているだけだ。


「せんぱぁい?どうしました?急に黙っちゃって」

あ゙ぁ゙もう…!!人が考え事をしているときにコイツは…!!!

「まーまー、大丈夫ですよ〜、聞かれてたって別にいいですしぃ〜」

またもやヘラヘラと、そして手をひらひらとあおいで言ってくる。

ウザったらしいヤツだな。


「じゃあ言わせてもらおう。聞いていた。完ッッ全に聞こえていた。不本意ながらな!!

だがしかし、お前なんぞに姉さんを譲りはしないからな!!!絶ッッ対だッ!!!!」

箱田に人差し指を突き付け、言い放つ。

箱田は一瞬きょとんと驚いたような反応をしてから、すぐに先程までのヘラヘラとした笑顔で

「相変わらずのシスコンっぷりですねぇ〜、せんぱぁい」と茶化してくる。


だから!!俺は!!シスコンでは!!ない!!

不機嫌な表情で箱田を見る。

すると箱田は「でもオレ…」と小さく言葉を漏らしたと思うと、突然立ち上がり、俺の腕を掴んで壁に押し付けた。

「オレ…優鳥先輩のこととは言ってないですよ?」


………は??

「いや、姉さんじゃなけりゃ誰だって言うんだよ」

困惑しつつも、それを悟られぬように箱田を睨みつけ問う。

箱田は、手を離すことなく真剣な表情でこう言った。

「だから、オレ、優鳥先輩とは言ってないんですよ。

…勇斗先輩。あなたのことですよ。」


「……はぁ?」

我ながら素っ頓狂な声が出た。

いや、だって理解できるわけないだろ。

何言ってんだコイツ。

俺が理解できずに箱田を見ていると、急にへらりと笑った。

「なーんてっ、冗談ですよ先輩…♪」と楽しそうに言い、手を離した。


(なんだ…冗談か…)

安堵したのか、体から力が抜けることがわかる。

………ん?ちょっと待てよ。俺じゃないということは…


「〜〜っっやはり目当ては姉さんかッ!!!!」

箱田を睨みつけ怒鳴りつけると、箱田は「あははっ!さぁどーでしょーっ!」とおちゃらけた様子で濁した。


「ふざっけんなよ!!姉さんをお前に渡してたまるもんか!!」

怒鳴りつけながら詰め寄る。

箱田は変わらずヘラヘラと笑い、両手を前に出して降参のジェスチャーをしている。

「え〜?さっき言ったじゃないですかぁ〜、勇斗先輩に言ったんですよ〜?」

おちゃらけた様子に怒りを掻き立てられる。

随分とナメた態度しやがって…!!

「冗談って言ってただろ!!結局どっちなんだよ!!」

胸ぐらを掴んで言うと、箱田は顔を近づけ、耳元で囁いた。


「どっちも…♡」


「〜〜〜っ!!ワケがわからん!!」


すぐさま手を離し、箱田を押し退け、睨みつけた。


箱田は俺の様子を見て、更に楽しそうに笑った。

「あっはは!せんぱぁい、顔真っ赤ですよぉ?」と煽りの言葉を並べながら。


本っ当に何なんだコイツは…!!

いけ好かない!!


「というかどっちもって、とんだ浮気男じゃねぇか!!」


「え〜?なんです先輩、オレを独り占めしたいって〜?」


「言っとらんわ!!」


だぁくそ!!コイツと話すと疲れる!!

最初の発言から今の今まで、ずーっとツッコミっぱなしだ!!


「んふふ、大丈夫ですよ先輩、幸せにしますから♡」


箱田はこちらを振り向き、人差し指を口に当て、笑って見せた。


「いや誰も了承してねぇだっつの!!」


まったく…もしかして、これからもコイツの相手をしなくてはならないのか!?


絶対…絶ッッ対に!!

姉さんにだけは近づかせてたまるか!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワケがわからない! ぺるそな @NOZOUSA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ