#7 ゲームセンターにいった
「今日はみんなでゲームセンターに行くわよ」
ある日の放課後、雪乃の提案で日常部員たちはゲームセンターに来ていた。
雪乃が小説執筆の取材のためにゲームセンターに行きたいけれど、一人では少し怖いということで、今回全員でいくことになったのだ。
「今日は久々に踊ろーかな」
店に入るなり、紅葉はダンスゲームコーナーへと走っていった。
「ダンスゲームを実際にプレイしているところを見られるのね。これは興味深いわ」
雪乃もそれに続く。
楓はプライズ限定の百合アニメキャラのフィギュアの獲得に挑戦すべく、クレーンゲームコーナーへ向かう。
卯月は初めてゲームセンターに来たようで、店の中を興味深そうに見回しながら、楓と同じようにクレーンゲームコーナーへ歩いていく。
みんな、自由だなー、とさくらはあっけに取られた。
少しした後、気を取り直したさくらは、まずは、近くのクレーンゲームコーナーから見て回ることにした。
そこで、卯月がクレーンゲーム機の中の大きなクマのぬいぐるみを見つめているのを発見する。
「やらないんですか?」
さくらは卯月に尋ねた。
「ああ、さくら。実はちょっと迷っていてね。欲しいけど、こういうのって必ず手に入るものでもないんだろう?」
「それがある意味クレーンゲームの面白さですからね」
「あと……どちらかといえば、こっちの方が主な理由なのだが……」
卯月が恥ずかしそうに声を細くして言う。
「私がかわいいぬいぐるみを持っていたら、みんなの期待を裏切ってしまわないかと思ってね」
「いや、全然そんなことないですって。カッコいい王子様が実はカワイイモノ好きとか、めちゃくちゃギャップがあっていいと思います。むしろ、ファンの子たちが喜ぶんじゃないですか?」
「そうか。そういうことなら、うん。チャレンジしてみようじゃないか。ありがとう、さくら」
急にウキウキになって、卯月はクレーンゲームを始めた。
周りからどう思われるかなんて気にせず、やりたいなら最初からやればいいのにと、さくらは思った。
けれど、卯月先輩のそういうところが、卯月先輩らしくていいな、とも感じた。
卯月の台のすぐそばで、今度は楓を発見する。
フィギュアのクレーンゲーム機の前でうなだれていた。
「……どうしました?」
「4000円使っても落ちないんだけど……」
「はぁ。そういうものなんじゃ……」
「でも、計算的に3200円前後で取れるはずなんだよ……次こそは……」
どんな計算でその金額を導き出したのだろう。
「そろそろ諦めた方がいいんじゃ……」
「だってガシャ10連分以上だよ⁉ ここでやめたら無駄になっちゃうじゃん……それに、この子も私のお迎えを待ってるの!」
楓は鼻息荒くそう言って、ゲームに再チャレンジし始めた。
駄目だこの先輩。早くなんとかしないと。
「おい、向こう行ってみようぜ」
「なんかスゲーんだってよ」
なにやらダンスゲームコーナーの方が騒がしい。
そこには紅葉と雪乃が行ったことを思い出し、さくらも向かう事にした。
「あら、さくら。あれを見てみなさい。すごいわよ」
さくらがコーナーに入ってすぐ、雪乃が気付いて声をかけてきた。
雪乃に促され、さくらが視線を送った先には、ダンスゲーム機の上で、華麗にステップを踏んでいる紅葉の姿があった。
ギャラリーから歓声が上がっている。
成る程、騒ぎの正体はこれだったのかと、さくらは納得した。
やがて、紅葉のダンスはフィニッシュを迎えた。
一際歓声が大きくなり、アンコールの声も上がった。
「やっほーっ! さくっちーっ! ゆきのんセンパ―イッ!」
ゲーム機上から、紅葉が手を振りながら、さくらと雪乃に声をかけた。
二人は手を振り返す。
「みんなのアンコールに応えて、もう一回だけプレイしちゃうよーっ!」
紅葉はもう一度、ダンスゲームをプレイするようだ。
「二人とも、ここにいたのか」
さっきまで見つめていたぬいぐるみを抱えた卯月がやって来た。
「紅葉、あんなに目立って……さすが私の妹……」
楓も一緒だった。狙っていたフィギュアを抱えている。
「二人とも、欲しかったの獲れたんですね」
「うん。卯月ちゃんに取ってもらったんだ」
「私、もしかしたら、クレーンゲームは得意かもしれない」
卯月は胸を張っていった。顔がいいから、ドヤ顔も様になる。
「私も後でクレーンゲームをやるわ。卯月、教えてちょうだい」
紅葉のアンコールを見届けた後、雪乃はクレーンゲームに挑戦したものの、まったく取れずに終わり、結局、卯月に取ってもらった。
後日、さくらは雪乃が書いた小説を読ませてもらった。
そこには、クレーンゲームに苦戦したり、ダンスゲームで注目を集めたりする、そんな少女たちの様子が描かれていた。
取材はちゃんと役に立ったみたいだ。
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