#6 自動販売機と戦った
休み時間。
喉が渇いたさくらは中庭の自動販売機コーナーにやって来た。
そこで、雪乃が飲み物を買おうと奮闘している場面に出くわした。
「んー」
一番上の段に向けて手を伸ばすが届かない。
つま先立ちになって、ぴょんぴょん跳ねるが届かない。
「手伝いましょうか、雪乃先輩」
見かねたさくらは雪乃に声をかけた。
「あら、さくら。大丈夫よ。もうちょっとで届きそうだから」
雪乃はそういうものの、さっきと変わらず届きそうにない。
「やっぱり、私が押しますよ。何が飲みたいんですか?」
つま先立ちで、ぴょんぴょん跳ね続ける雪乃の横にさくらは立った。
「ダメよ」
雪乃の制止する声が下から上がってくる。
「というか、今まで自販機で飲み物買うときどうしてたんですか?」
「私、自販機使うのは、今日が初めてなの」
雪乃の身長は、とても小さい。童顔なこともあって、見た目だけなら小学校中学年ですといっても違和感がないくらいだ。
「私はこんなだから、今まで自販機を使うことを避けていたわ。しかし、どうしても飲みたいものが、自販機にしかなかったら? 戦いは避けて通れないわよね? これは私にとっての挑戦なの」
「先輩は一体何と戦ってるんですか……」
しかし、手を出すなと言われたら黙って見ているしかあるまい。
雪乃は相変わらず手を伸ばしながら、ぴょんぴょんと跳ねている。
やがて助走をつけて飛ぶことを閃いたようで、自動販売機から少し距離を取った。
「行くわよ」
助走をつけ、自動販売機に飛び込む雪乃。
ピッ。
「やった」
一番上の段のボタンに触れたようだ。
飲み物を吐き出すガコンという音がした。嬉しそうに取り出し口に手を入れる雪乃。
しかし、中に入っていたものを取り出すとがっかりした表情を浮かべた。
「どうしたんですか?」
「飲みたかったの、これじゃなくて隣のジュース……」
雪乃の手には『マズ過ぎて逆に飲んでみたくなる!ゲロマズミックスジュース』が握られていた。ボタンを押し間違えてしまったようだ。というかこのジュースは誰得なのだろう。
「あー、じゃあ私がそのジュース買いますよ」
「そんな後輩に買ってもらうなんて……」
見た目は先輩……どころか高校生にも見えないけれど、雪乃は、先輩としての立場を気にしていた。
「だったら、それと交換しましょう。それならいいでしょう」
さくらは自販機で、雪乃が飲みたがっていたジュースを買い、それを雪乃に差し出した。
「本当にいいのかしら?」
「ええ。どうぞ」
「恩に着るわ。ありがとう」
雪乃は目当てのジュースを手に入れて、喜んで自分の教室へと戻って行った。
さてと、とさくらは思った。
「このジュース、どうしよう」
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
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