#5 衣装合わせをした
「どう? さくらちゃん。似合ってる?」
さくらが部室に入ると、犬の衣装を着た楓が声をかけてきた。
着物をベースに、犬耳、モコモコのアームカバーにレッグカバー、尻尾を加えた凝ったものだ。
「ええ、似合っていますよ」
かわいすぎて内心きゅんとなりながらも、それを表に出さないようにできるだけクールに振舞う。と、同時に、さくらは今日が近所の幼稚園との交流会で行う劇の衣装合わせの日だったことを思い出した。
一見訳の分からない部活でありながらも、日常部が学校から存在を認められているのは、定期的に生徒会の業務を一部手伝っていることが大きい。
生徒たちがより良い日常を送るための活動の補佐。それが日常部の書面上の活動内容である。生徒会のサポートをすることは、きちんとした活動実績になるのだ。
幼稚園との交流会は、生徒会主導のイベントで、毎年行われている。そこで子供たち向けに劇を披露するのだが、生徒会役員だけでは人手が足りないため、日常部員たちも駆り出されるのだ。
今年の演目は桃太郎だ。
「正義の味方として、悪い鬼をやつけるよ」
楓がモコモコに包まれた手で犬のポーズをとる。
「……あなた、本当にそれでいいの? 顔も隠れているし」
「ああ。あまり目立ちたくないからね」
「逆に目立つと思うのだけれど……」
満足そうに猿の着ぐるみを着ている卯月と困惑する雪乃。
そんな雪乃の役は鬼。
だけど、その衣装は派手な着物を着崩したもので、鬼と言うより花魁というようなものだった。その上、全身にガチャガチャと様々なアクセサリーもつけていた。
「そんなにアクセサリー付けるんですか?」
「ああ、これ? せっかくだから、衣裳部屋で見つけたアクセサリー、全部つけてみた」
「全部⁉」
さくらは思わず突っ込んだ。
「な、何で全部つけちゃったんですか……?」
「えっ、だってその方が目立てるでしょう? こういう時は目立ってなんぼじゃない」
雪乃は満足気に言った。
目立つは目立つけど、悪目立ちじゃないですか、それ。まあ、本人が満足しているなら別にいいか。
そんな風にさくらは思った。
「ごめ~ん。遅くなっちゃった~」
部室に入ってきた紅葉に、室内全員の視線が一つになった。
紅葉の役はお婆さん。身に着けている衣装も普通の着物である。
ただ――。
「ちょっと衣装がキツくてさ~着るのに時間かかったんだよね~」
胸が。
すごいのだ。
元々、紅葉の胸が大きいことは、部員たちには認知されている。
その大きさを部員たちは改めて感じた。
衣装で圧迫されているものの、それでも目立つ胸の膨らみ。
少し動いただけでも衣装がはち切れそうだった。
その場にいた部員たち全員が、お前のようなお婆さんがいるかと思わずにいられなかった。
そして、自分の胸を確認し、圧倒的なサイズ差に敗北感を覚えた。雪乃に至っては、
「胸……やっぱ胸か……フフ。私もバストアップする為に頑張っているのだけれど……」
ブツブツと呟きながら、ガチャガチャと身に着けていたアクセサリーを外し始める。
「え~みんな、黙り込んでどうしたの~。あーし、何かやらかした~?」
紅葉はただ一人困惑している。
もちろん、紅葉の衣装は作り直すことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます