#4 勉強会をした

 もうすぐ中間テストである。


 テスト前週間に入ると、どの部活も休みになる。もちろん日常部もだ。


 そんな訳で、テスト前に部室が使える最後の日、楓発案の元、日常部員で集まって勉強会を開くことになったのだった。


 ちなみに、今回紅葉だけ欠席だ。クラスの友人たちの勉強会に参加するらしい。


「なんで、テストなんてあるのだろうか……授業態度だけで成績をつけてくれればいいのに……」


 問題集にシャープペンシルを走らせながら、卯月がつぶやく。


「ああ、卯月は授業態度だけはいいものね」


 シャープペンシルをノートの上に走らせながら、雪乃が言った。


「だけってなんだい、だけって…」


「前のテストだって、5教科合わせてストレートフラッシュだったでしょう?」


 前回の卯月のテストの成績は、国語13点、数学1点、英語11点、日本史12点、生物10点だ。


「1点とか、狙っても取れるものじゃないでしょうに。あなたのファンの子達が幻滅するわよ? というか、なぜいまだにされていないか不思議だわ」


「卯月ちゃんのファンの子達は、卯月ちゃんを前にすると、全身に尊さが溢れだして、些細なことがどうでも良くなるんだって」


 プリントの隅に落書きをしながら、楓が答える。


「何それ……卯月、あなた、身体から変な電磁波とか出しているんじゃないでしょうね?」


「出せる訳がないだろう! 私だって、みんなの期待を裏切りたくないから、頑張ってはいるんだ」


「それで1点なのかしら?」


「くっ……私だって、もっと本気を出せば……」


 うおおおお、という気合と共に問題集に取り組む卯月。


 しかし、3分持たずに、机の上に伏せて寝てしまった。問題集は1ページも進んでいない。


「……本当に、授業は真面目に聞いているのに……」


 雪乃がため息混じりに呟く。


「でも、勉強が苦手でもちゃんと授業を聞くのは偉いよ。そういう真面目さも、卯月ちゃんの良いところだよね」


 楓はせっせと絵を描きながら、卯月を褒める。


「それは私も同意するわ。卯月は顔が良いだけのバカだけど、真面目だし、何だかんだ苦手なことも一生懸命やるすごい奴よ」


 照れを隠すように雪乃がフフっと笑う。卯月を褒める流れが出来上がっていた。


「みんなの期待に応えるためだって、運動部の助っ人もよくやってるのもすごいですよね。しかも、毎回大活躍するらしいじゃないですか。プリンスの呼び名は伊達じゃないと思います」


 流れに乗って、さくらも卯月を褒めたところで。


「それより、楓先輩は勉強しなくていいんですか?」


 さっきから、ずっと落書きしかしていない楓に、さくらは訊いた。


 そもそもこの会は楓発案なのだ。てっきりテスト対策の勉強が進んでいなくて、その穴を埋めるために企画したのではないかと、さくらは思っていたけれど……。


「うん。私は常々思っているんだけど、テストというのは、普段の能力を試すものなのでしょ? テスト前だから勉強量を増やすというのは、本来のテストの意に反すると思うんだよ」


 だから、と言葉を区切って楓は言い放った。


「私はテスト勉強というものをしていないんだよ」


「……え? じゃあ、この会は何のために?」


「それは、ほら、テスト前にみんなで勉強会って、アニメでもよく見るでしょ? だから、ちょっとやってみたくて」


「……はぁ」


「この子、こんなんでも毎回学年総合十位以内には絶対入っているのよね……ちょっと腹立つことに」


 雪乃がふんと鼻を鳴らす。


「それなら、私に勉強を教えてくださいよ」


 さくらの頼みに、楓は困った表情を浮かべた。


「どうも人にモノを教えるのが苦手なんだよね」


 頭の中では、理解していても他人にそれをうまく伝えられないらしい。


「紅葉から『お姉の説明は逆に脳がバグる。二度とあーしに勉強を教えないで』と言われたレベルで良ければ、教えてあげるよ。もちろん、おすすめはしないけど」


 楓に教わるのを諦めたさくらは、時折、分からない所を雪乃に教えてもらいながら、勉強を進めていく。


 雪乃の教え方はとてもわかりやすく、さくらの勉強はかなりはかどった。


 部屋には、すっかり忘れられている卯月のすやすやという寝息とシャープペンが走るカリカリという音だけが響いていた。

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