第179話
窓から望める大聖堂のステンドグラスが夕日を反射して紫がかったバラ色の光を街路に投げかけている。
窓辺に腰かけ、そのあえかな光の筋にプレヌはぼんやりと見入っていた。
この世には美しい場所がもっと、無数にあるのだろうか。
カテドラル。教会の尖塔。それだけじゃない。
光を反射する大海原に雪道のダイヤモンドダスト、密林の奥のひみつの遺跡。
本の中でしか出会ったことのないものたちが、きっとあふれている。
陽の高度が上がり、スカートに映り込んだステンドグラスの曼陀羅模様に、プレヌは視線を落とした。
彼は連れていってくれると言った。
未知の世界へ。
このパリの、いやフランスの外の外まで――。
そこにはいったい、なにがあるのだろう。
思うままに想像をはためかせ、ふいに時計を見上げると昼を過ぎていて、プレヌはかぶりを振った。
このところどうもぼうっとしていけない。
想うのは決まってロジェのこと。
さいしょはただ、目的を同じくする旅の道連れだった。
彼はプレヌの周りをこれでもかというほど、華やかなもので囲って。
角砂糖一つ差し出すような、自然であまりにさりげない優しさに、誰のそれより胸に抵抗なく入ってくる言葉。
その過去の悲惨さに狂わんばかりの切なさを感じた。
勢い好きだと言ってしまったのも。
唇を重ねたのも。
なにもかもがはじめてのことで、頭が追いつかなかった。
無意識に額に指先をあてたとき、ことりと音がして、扉のほうに目をやった。
受け口から落ちたのは一通の封筒――手紙がまた届いている。
差出人名に、宙を漂っていた意識が一気に引きずり下ろされる。
実家――コルネイユ家からだ。
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