第108話

 大いなる不満と説教を胸にロジェは、プレヌの部屋の扉を叩いた。

 この部屋の扉が開いて、見慣れた蜂蜜色の髪が入り込んでいくのが見えたのが、つい数分前。

 ここはひとつ、しめておかなければ。


 ドアをノックするが、返事がない。

 入るよ、と一言断って、ゆっくりと扉を開く。


「一人で外に出ないようにって言ったんだけど」

「……」

 ちら、と文机に投げ出してある本のタイトルが目に入り、小さく息をつく。

「自由を求めて羽ばたく鳥はいいけど、今は辛抱だ」

「……うー」

「ん?」

 ロジェはそこでようやく、プレヌを見た。

 彼女はベッドにいた。

 枕に顔をダイブさせ微動だにしない。


 説教のために来たのではあるが、こうなってくると心配になってくる。


「どした? 疲れたか?」

「ううん。そういうわけじゃない……」

 枕の下から響くのはいつもの柔らかなソプラノではなく、くぐもった声。


「じゃなにか。食べ過ぎか?」

「……」

 数秒の沈黙の後、またまたくぐもった声が応える。

「そうよね」


「わたしなんておいしいものをたらふく食べることだけが取り柄の、色気もない野暮ったい女だものね……」


「白鳥のような大聖堂なんかより、部屋の片隅でぶたさんみたくごろごろしているのがお似合いよね」

「……?」


 ロジェは首を傾げる。 

 事情はわからないが、なんだか卑屈になっているようだ。

 身内から存在を疎まれても、めげずに立ち上がった彼女が。

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