第28話

 ゆるくカールされたブロンドの髪。

 シェルピンクの淡いグロスを塗り、立体化した小さな唇。

 アップルグリーンの瞳は生き生きと燃えるようにきらめき。

 知らなかった。

 けれどずっと知っていた。

 胸の奥に閉じ込められていた女性が、そこにいた。

 


 鏡の奥の彼女の隣で、ロジェが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「表情も数十分前と段違いだ」

「うっ」

「どうだ、悪い気しないだろ」



 挑戦的に微笑まれ、鏡の中の彼女が赤くなる。

 流行の服で着飾って胸が高鳴り弾んでいるのは自覚していた。

「嘘のつけない自分の性格が恨めしいわ」

 頬を抑え呟くと、おかしなことでも言ったかのようにあはは、と笑われた。

「誰かと連携して目的を達する上で、正直は基本だろ」

 そうなのか。

 いや、プレヌが今までいた社会では違った。

 腹の底を隠したかけひきや世辞がものを言う場所だった、ような気がする。

「ありがとうございました」

 気がついたら、軽やかにドアのベルを鳴らして、ロジェは店をあとにするところだった。

「踵のヒール、痛くなったら言えよ」

 振り向きもせず右手を上げて言われた慣れない気遣いの言葉にまた、上気したまま頬が静止する。

 完全に相手のペースだ。



 さて、次はどこへと思考を切り替え、本来の目的を思い出す。

 エスポールがいそうなところって、どこかしら。

 郊外の家から持参したパリの地図を取り出そうとレティキュールを漁ると、なにかがはらりと舞い落ちた。



 拾い上げたそれは、さきほど香水コーナーの店員さんからもらった広告だ。

 何気なく目を走らせて――冗談ではなく、背筋ごと脈打った気がした。

 商品説明の裏に、流れるような文字だが明らかな手書きでメッセージがしたためられている。

 広告ごと震えだした手を、プレヌはつきだした。



「ロジェ、これ見て!」

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