Act23.夢未 ~躍起~

第56話

 そう呟くと、星崎さんはますます困ったように顔をしかめました。



 その表情がまるでききわけのない小さい子にするようなものだったのが、よけいに癪にさわります。

 ほんとうを言えば、彼がいじわるで言ったのでないことくらい、わたしにもわかっていました。

 昨日、この部屋で、絵本を見て思いついたときにはとてもいい考えに思えました。

 彼はきっとほめてくれると思っていたのに。



 彼が客観的で懸命な策を述べれば述べるほど、おもしろくない心地がむくむくと胸に、全身に広がっていくようでした。

 お母さんはきっと、助けてくれると思うのに。

 そこまで考えて、星崎さんの理論といかにも対照的な、自分の考えの甘さと幼稚さが際立ってきて、よけいにやけっぱちです。

 持ち前の頑固さと、理想に焦がれ、まい進する性質が、今回もあだとなりました。



「なんと言われても、わたしはお母さんを信じます。もう、星崎さんには相談しませんっ」

 興奮して立ち上がった、子どもじみた態度をとったことが、ますますわたしを不機嫌の色に染めていきます。

「夢ちゃん。待ちなさい」

 星崎さんの声を背に受けて、高校のスクールバッグを手に、わたしはその場を後にしたのでした。

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