6.ステージ裏の陰謀

第54話

 関係者用出口に向かってライブ会場の廊下を歩きながら、あたしは不思議な余韻に浸っていた。頭がぼうっとしてそれでいてどこかハイになっているのがわかる。まるでお祭りが終わった夜のような高揚感と胸の底にただよう甘い気持ち。

 頭に腕を回されて、抱きしめられたときの感触が、まだ消えない。

 廊下を出てしばらく歩くと、角に人影が見えた。

 センスのいいパーカーにジーンズ。見知ったその姿ににわかに目が覚めた心地になる。

「駆くん!」

 走っていくと、彼はやぁ、花乃ちゃん、と片手を上げた。

「さっき駆くんのマネージャーさんに会ったよ。先輩のライブ勉強なんてえらいね」

 そう言うと、駆くんは、うん……とどこか心ここにあらずといったように呟いて、うつむいてしまった。

 なんだかいつもの元気がない。

「母さんが、これから機械室でマネージャーとスタッフさんと打ち合わせあるからさきに帰ってろって」

 そうだったんだ。

 その口元がきゅっと結ばれる。

「たしかにこのあとレッスンが入ってるんだけど。でも、おかしいよな。なんで僕がいちゃいけないんだろう。僕の仕事のことなのに」

 どこか不満げに呟かれた言葉にはっと顔を上げる。

「いっしょにいるって言ったら、まだ子どもにはわからないことだからって。なんだよ、それ」

 きれいな目元をすがめて、もどかしそうだ。

 何も言えずにただ見守っていると、その口元から、ごめんと呟く声がした。

「正直気になるんだ。母さん、たまに強引に意見押し通したりするから」

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