第50話

 電車で一駅。やってきたのは、電化製品からお菓子まで日用品がお得にそろうチェーン店だ。変わったカチューシャを買うのにいいところは知らないかときかれたので、ここを提案した。

 商品でしきつめられた店内を見渡しながら、狭い通路を通りつつ、純がサングラスの中の目を丸くする。

「こんな便利なとこがあんだな……」

 若者を中心に超人気のチェーン店を知らないなんて、一般都民とは思えない。

 そこまで考えて、人気アイドルは一般都民には含まれないか、と気づく。

 キャラクターもののコスプレグッズやかぶり物が並んでいる列を見つけたあたしは、いち早くかけていく。

「あったあったー」

 さすが大手チェーン店。マニアックなアニメのグッズまであるこの店にうさみみがないはずがない。

 商品棚にかかっていた長い耳のカチューシャをかぶって、ピースサインしてみる。

「どう、似合うー?」

 純は目をすがめてこっちを見るといつものごとく偉そうに腕を組んだ。

「ふん。あほ作家の自画像にはうってつけだな」

 恋愛ドラマの役でやってるみたいに、少しは照れたりほめたりしろよとか心でつっこみつつ。

「まぁでも、あたしに似合っても意味ないよね」

「似合ってるとは言ってねーけどな」

 軽口をスルーしつつ、手をふる。

「ちょっとこっち来て。つけてあげる」

 すると純は組んでいた腕をほどいて、露骨にいやそうな顔をした。

「はぁ? いいよ」

「だってサイズとか確認しないと。それに、きっと似合うよ」

「ばか。グラサンにうさ耳なんてあやしいことこの上ないだろ」

 むきになって反論するその顔が小さな男の子みたいだ。

 一人笑いをかみ殺していると、急に肩を勢いよく引き寄せられて、あっと声を出す間もなく、視界が真っ暗になる。

「――っ」

 気のせいか、彼の鼓動がきこえる気がする。

 もしかしなくてもあたし。

 彼の胸に顔を押しつけられてる――?

 状況を心の中で確認するも、あんまりなことに一言も出ない。

 純? どうして、こんなこと――。

 その前に、別の声がした。

「エクレールの一路純さんですよね? お話きかせていただけますか」

「すみません、このあと仕事が入っているので」

 遮るようにそう言うと、彼はあたしの手を引いて、出口へ走り出した。

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