第49話

「なにそれ! かわいいっ!」

 思わず心に浮かんだことを叫ぶと、純はよけいにげんなりとした顔で首をまわした。

「ねぇ、純はなんの動物の耳つけるの?」

「だから、いいだろ別に」

「教えてよ! 猫? ネズミ? トラとか熊とかきっと似合うよね! 態度の大きさからして!」

 興奮おさまらずに言えば、うっせーなと一喝される。

 沈黙のあとの答えは。

「……うさぎだよ」

「ぷっ。あはははっ」

「くそ。笑いたいだけ笑えよ」

 まだ笑いがおさまらない声で、さらに本音を言う。

「ぜったいファンのみんな喜ぶよ」

 虚をつかれたように、一瞬彼は黙った。

 そして、くるりとまたそっぽをむいて。

「あたりまえだ。『エクレール』のライブだぜ。来てくれた人全員楽しませる」

 あたしはただ、うん、と大きくうなずいた。

「……しゃーねーな」

 どこかあきらめたように。でも決然とした声がする。

「つきあえ。そのカチューシャ、買いにいく」

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