第45話

「どどど、どうやって……」

「あのあと、スタジオ裏のゴミ捨て場をひっかきまわした」

 平然とつぶやかれた回答に、気絶しそうになる。

 頭の中で新聞の見出しが躍る。

『中二女子、人気アイドル一路純にカラスの仕事を強要』

 アイドルにそんなことさせたなんて公になったらあたし、世界中の女の子を敵にまわす……! 

「なんで……?」

 なんでそこまで。

 口から言葉がぽつり漏れると、純はまた当然のように答える。

「亜莉珠に問い詰めてもらちがあかなかったからな。こうするっきゃねーだろ」

「……亜莉珠ちゃんが捨てたなんてあたし一言も」

「スタッフが許可なく控室のものを捨てるとは思えない。あのとき楽屋にいたのは亜莉珠だけだし。そうじゃなくても、あいつはいろいろと問題起こすことが多いからな」

 そうなんだ。

 なんだか同情してしまう。

「大変だね」

 思わず呟いた言葉に純の片方の眉が上がる。

「共演者でしかもカレシだったら、フォローしなきゃならないし」

 そう言うと、純はげんなりと首をもたげた。

「あんな三面記事信じてんのか」

 え?

「仕事だからなんとかやってるけどな。オレはああいうタイプはどっちかいうとだめだ。この原稿のこと問い詰めたときだって、わんわん泣かれてまいったぜ」

 途方に暮れた顔をする純を見ていたら、今度はなんだか亜莉珠ちゃんがかわいそうになってくる。

 こいつは彼女の気持ちに、ぜんぜん気づいてないんだろう。

 でもなぜか。

 恐ろしく心が安らいでいることがふしぎだ。

 がばっとあたしは頭を下げた。

「ほんっとに、ごめんなさい! そこまでしてもらうつもりじゃ」

 がたっと椅子の音を立てて立ち上がって、手をあわせて腰を曲げると、

「どこまであほなんだ」

 純は当たり前のようにそう言って、荷物を足元に置くと、となりに腰かけた。

「大事なものを勝手に捨てたりして。とがめられるべきなのはこっちのミスだ」

「そんなことないよ!」

 負けじとそう言ってしまってから図書館で大声を出してしまったことに気づき、あわてて声を抑える。

「ほんものの芸能界の舞台裏を取材させてもらったんだもん。すごく、ありがたかった」

「ふん。見かけによらず根性あるじゃねーか」

 純の視線のさきには、あたしの前にあるもう一つの書き起こしの原稿があった。

「……書きつづけてるみたいだな」

 優しげな瞳が心に活力を満たしていく。

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