第41話
すぐ取り出せるように、荷物の下に確かに置いておいたはずなのに。ほかのところに置いたんだっけ。
そう思って、ぐるりと部屋を見渡したとき、くすり、と、かすかな笑いがきこえた。
「あぁ、そこにあった紙の束のこと?」
亜莉珠ちゃんが、顔の前のポスターを下げた。
「スタッフさんに捨ててって言っといたよ」
現れたのは、凍りつくほどきれいな、笑顔。
「いらないものかと思って」
そして、表情と真逆の、低い声。
まるで魔力にとらえられたように、身体が動かない。
三日月の弧のようにきれいな形をした亜莉珠ちゃんの口が、歌でも奏でるように言葉を滑り出す。
「ねぇ、花乃ちゃん。純が気まぐれ起こして連れてきたからって勘違いしないでね。わかってると思うけど、ここにいるのはそれなりの人たちばっかりなの。こんなとこにいなかったら誰も目にとめないくらい野暮ったいから。たぶん純だって、それが物珍しいだけじゃないかな」
きれいな声で紡がれる言葉が槍のように心をえぐる。
「かわいそうな人見るとほっとけないの。意外と優しいんだ、純って」
そう言った瞬間だけ、亜莉珠ちゃんの目はどこか切なげで、苦しげで。
今になってようやく、あることを思い出す。
夏陽が言っていたっけ。
亜莉珠ちゃんと純はつきあっているってうわさもあるって。
それがほんとうかどうかはわからない。
でも、きっと亜莉珠ちゃんは、純のことを――。
世間も認める、お似合いのふたりだ。
そう考えたら、どうしてか、耐えられなくなって、あたしは部屋を飛び出した。
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