第36話
って、なに考えてんだあたしは。
ふいに思った言葉を打ち消すように首をふると、視界に壁いっぱいの大きな鏡が飛びこんでくる。
そこに映っている小柄な女子の、なんて野暮ったいこと。
厳しい稽古をしたわけでもない、むしろ大人の人たちに気をつかってもらった一日だったにもかかわらずくたびれきった表情。平凡なおさげ。
あの亜莉珠ちゃんを見たあとだと、よけい自分が地味に見える。
神がかってかわいくて、くるくる舞うようにポーズをとっていた亜莉珠ちゃん。
さっきのあの言葉も、きっと悪気がなかったんだろう。
人気爆発中の芸能人のあの子が自分のことを、ありふれた女の子のあたしとは違うと思っていたとしても、それは間違いなんかじゃない。むしろ、とうぜんのこと……。
テーブルに手をかけながら、まだスポーツドリンクを景気よく一気飲みしている純をこっそりと見つめる。
あたしも、世界にたった一人の大事な存在になれたらな。
……。
しばらくぼけっとそんなことを考えて、
「そうだ。忘れてた」
ふいに思い出して、テーブルに置いた袋を掴んでソファの前に行き、差し出す。
「お疲れさま。はい、ドッグバーカー」
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