第35話
スタジオに迎えにきてくれた千葉さんに、控室というところに案内された。小さな部屋の側面についた長い鏡と長い机。その上にたくさんのメイク道具が置かれている。しばらくそこで待つよう言われ、純が戻ってきたのは、あたしが買い物から帰ってきたあと、とうにお昼を過ぎたころだった。
やってきた純はようやく会議終わったーと大きく伸びをすると、かたわらにある固そうなソファにどかりと腰かける。
「どうだ。取材の調子は」
答えの代わりに大きくうなずく。
「大変なんだね。特訓。思ってた数倍ハードそうだった」
昼間、舞台監督の怒声をあびながらダンスの特訓をしていた純の姿がまだ頭から離れない。あんなこと言われたらあたしだったらすぐめげてしまうだろう。
「げっ。鬼監督のレッスン見てたのかよ」
純は苦いものでも食べたみたいに顔をしかめると、がくんとおおげさに首をもたげた。
「はー。オレ超かっこわり」
そのしぐさはちょっとだけ笑える。
大人の人たちにかこまれて緊張していた体がほんの少しだけほぐれていく。
「ううん。そんなことない。すごいよ」
あんな厳しいレッスンを何時間もぶっつづけて、しかもそのあとはぶっつづけの会議。
「それに耐えながら仲間のことだって気にかけて」
純が藤波くんの異変に気がつかなかったら大変なことになっていたかもしれないって駆くんだって言ってた。
あたしには、とてもできない……。
午前中の仕事を終えて、スポーツドリンクを飲む彼は、舞台の上のときのように華やかな衣装を着ているわけじゃない。疲れきって髪も乱れていて……でもやっぱり。
ちょっとかっこいいな。
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